基礎編
[1] 小児のショック
ガイドラインについて
ショックの定義
ショック時の細胞内障害の分子学的機序
ショックの臨床症状
ショックの重症度分類
ショックの原因分類
ショックの鑑別法
治療の実際
[2] 小児の敗血症と敗血症性ショック:その定義と病態生理
敗血症,敗血症性ショックの定義
敗血症性ショックの病態
[3] 心原性ショック
1 急性心不全の病態と管理
小児心不全の定義
急性/慢性心不全治療の共存と棲み分け
急性心不全の病態把握:成人と小児
急性心不全治療の原則
急性心不全治療における 2 つのアプローチ法
急性心不全治療の考え方
拡張障害
薬物治療
非侵襲的陽圧換気(NPPV)
補助循環と心臓移植
2 肺高血圧症の病態と管理
疫学,病態生理
検査所見
肺高血圧発作(PH crisis)
治療
実際の管理方法
症例検討
[1] アナフィラキシーショック
症例
アナフィラキシーの診断
アナフィラキシー,アナフィラキシーショックの治療戦略
症例のまとめ
[2] 細菌性髄膜炎のショック
細菌性髄膜炎に伴うショック
症例
[3] 心筋炎のショック
心筋炎の対応
実例から学ぶ劇症型心筋炎の注意点
トピックス
[1] ショック鑑別のためのPOCU(point-of-care ultrasound)
超音波検査の進歩
POCU の検査特性
POCU を使ったショックの鑑別法
症例
[2] ショック治療におけるECMOの役割
ECMO とは
ECMO 管理の実際
[3] 小児の敗血症性ショックでガイドラインは今も有効か
1 急速輸液について:proの立場から
現在のガイドラインにおける急速輸液の位置づけ
小児の severe sepsis/septic shock 診療アルゴリズムと急速輸液
急速輸液に関する最近の研究と解釈
筆者の考え
2 急速輸液について:conの立場から
ACCM-PALS ガイドライン:15 分で 60mL/kg のエビデンス
反論する研究:FEAST trial
改訂 Starling の法則
敗血症の病態:小児と成人の違い
筆者の考え
3 ショックにおけるカテコールアミンの適正使用
ショックにおけるカテコールアミンの必要性の有無
心筋に対するカテコールアミンの陽性変力作用
血管内皮細胞に対するカテコールアミン作用
血管平滑筋に対するカテコールアミン作用
ショックにおけるカテコールアミンの有害性
小児診療におけるカテコールアミンの選択
4 ステロイド補充について:proの立場から
現状でのエビデンス
筆者の意見
5 ステロイド補充について:conの立場から
現時点でのエビデンス
その他の知見
ガイドラインの推奨
ステロイドが有効でない理由
現時点でのまとめと今後の展望
6 血液浄化について
敗血症に対する血液浄化療法(non renal indication)の概略
敗血症に対する血液濾過法(HF)のエビデンス
敗血症に対する血液吸着療法(HA)のエビデンス
敗血症に対する血漿交換療法(PE)のエビデンス
敗血症に対するその他の血液浄化療法
小児における敗血症に対する血液浄化療法
実臨床におけるピットフォール
小児敗血症に対する血液浄化療法(non renal indication)に関する私見
[4] 敗血症性ショック研究最前線
敗血症性ショックにおける微小循環障害
ミトコンドリア機能と細胞内代謝の異常
一見すると矛盾する治療
神経系による免疫調節:inflammatory reflex
炎症反応の抑制と収束
適確医療 precision medicine の応用
...序 文
日本小児集中治療研究会は,ワークショップやPALS(小児二次救命処置法)の講習会などを通じて,小児救命救急・集中治療の分野の発展に20年以上にわたり貢献してきた。しかし,この分野の知見を示すまとまったテキストがなく,長い間待望されていた。今回の「小児救命救急・ICUピックアップ」シリーズは,このような期待に応える形でメディカル・サイエンス・インターナショナルより出版される運びとなった。
本書は,その「小児救命救急・ICUピックアップ」シリーズの1冊目として誕生した。第1巻ということで小児救急・集中治療のなかで遭遇しやすいが, 病態がわかりにくく対処しにくい「ショック」をテーマとして選んだ次第である。
小児の救命救急・集中治療の現場で患者を評価するとき,まず呼吸障害と循環障害の重症度分類と原因分類を行い,それに合わせて治療を選択していくことになる。循環障害の治療は手間のかかることが多く,生死に直結する可能性が高い。したがって,小児の循環障害においては,的確な評価と迅速な治療が不可欠となる。
例えば,小児は成人と比較して予備力がないために,下痢や嘔吐だけでも重篤なショック(循環血液量減少性ショック)に陥ることはよく知られた事実である。また,小児にはショックから急速に心停止に至るような脆弱性があり,早期の診断に基づいた適切な治療が不可欠である。
また,成人とはショックの病態も異なる。例えば,敗血症性ショックの場合に成人ではwarm shockが多いが,小児では心機能の予備力がないためにすぐにcold shockになってしまい,当然ながら治療薬も異なってくる。そのほかにも,成人では心原性の心停止が大部分を占めるが,小児では呼吸原性の心停止が多いことは,成人と小児で明らかに病態が異なることを表している。
このようにショックにおいては,症状から原因疾患,治療に至るまで多くの点で小児は成人と異なるにもかかわらず,小児のショックについての詳細なテキストはほとんどないのが現状である。本書は以上の点を念頭において,小児のショックに関する基本的事項から最新の知見までを網羅し,診断・治療の指針を提示すると同時に,この分野でのホットな話題を提供することも目的としている。
本書が,小児のショックを診断・治療する際の一助になれば幸いである。
平成29年11月吉日
櫻井淑男
編集委員会 日本小児集中治療研究会