序文

原著者序文(1/2)

『ハリソン内科学』の初版が出版されたのは今から60年近く前のことである。以来,内科学は大きく進化し,科学的なめざましい進歩をさまざまな診断・予防・治療などの手段に取り入れてきた。本書は,医術の理念と最適なケアの基礎にある原則を大切に守りつつ,こうした進歩と足並みをそろえて進化してきた。この第 17版の方針を定め改訂するにあたって編者が意識したのは,本書を現代医学の数々の要求に応じていかなければならない医学生や臨床医にとって欠かすことのできない情報源とするには,どのような教科書を作ればよいかということだった。

本書の外観上の顕著な特徴の1つは,新たに追加された図や,最新のものに改変された図の多さである。この第17版では300の図が新たに加えられており,旧版よりも20%増えている。付録のDVDの新しい図も含めると,この版の図は800も多く,わずか1版で60%も増えたことになる。複雑な概念,経路,アルゴリズムを明快で説得力のあるものとするため,多くの図が著者や編者とグラフィックアーティストとの緊密な協力のもとに描き直された。また,放射線学的診断が一般医療に広く用いられるようになった現状をふまえて,第17版には,単純X線写真,CT,MRI,超音波画像も多数追加されている。病理写真や臨床写真を大幅に増やしたのも,『ハリソン内科学』の図を充実させたいという編者の一致した考えに沿ったものである。

『ハリソン内科学』第17版は,第16版に続いてフルカラーを採用し,よりわかりやすく,より読みやすくなっている。第16版では,それまで本文とは別に1カ所にまとめてあったカラーアトラスを各章の中に入れるという変更を加えたが,非常に評判がよかったため,今回も同じ方式を採用した。第17版は,本文や図表をすばやく参照できるようにするために,デザインに多くの変更が加えられている。例えば,表は色に濃淡をつけて見やすくしてある。また,図表の表示は目につきやすいようにカラーにしてある。さらに,各章の治療の項はこれまで以上に迅速に探し出せるようにデザインしなおした。新たに加えた地球のアイコンは,世界各地の医療における重大な疫学的および臨床的に差異があることへの注意を促すものである。

情報技術の進化は『ハリソン内科学』の性質,形式,媒体を拡大し深化させることを可能にした。『ハリソン内科学』第17版には付録としてDVDが加えられた。このことにより,編者は本書の内容をさらに拡充する全39章の「eチャプター」を加えることができた。DVDには,従来の章と同じ形式で記述されているもののほかに,多くの診断および手技に関するアトラスも収録してあり,読者には大いに役立つはずである。DVDにはさらに,内視鏡画像や心臓画像のビデオも数十編収録されている。これらの診断アプローチは臨床に欠かせないものになっており,ビデオには異常な解剖学的構造,機能と結果が鮮明に描出されている。

経済や貿易のグローバル化は先進国も発展途上国を問わず世界各国に大きな影響を与えた。それに伴い,医学の国際化という現実がはっきりと見えてきた。これに関連して,本書は世界中の医学生や臨床医に広く利用されており,米国内にあっても国際保健の問題に直面することが増えてきている。そこで,第17版では各章で国際保健の側面を特に強調するほか,総説として新たにKim博士とFarmer博士による「医学における国際的問題」という章を設けた。必要であると判断された疾患には,さまざまな地域的な事情に対応して可能なかぎり質の高い医療を提供するうえで考慮すべき,有病率,アプローチと治療の地域差を示した。これらは,内科学の基本的知識について専門的な情報源を必要とする学生だけでなく,日々の診療に追われながら臨床決断の基礎となる最高の情報を明快に,簡潔に,バランスよくまとめた情報源を必要とする臨床医にも役立ててもらうため,編者一同が新しい『ハリソン内科学』に加えた変更のごく一部にすぎない。

第 17版は,Joseph Loscalzo, MD, PhDを新しい編者に迎えることでますます充実した。彼は,最年長の編者であるEugene Braunwald, MDとともに,「循環器疾患」「呼吸器疾患」「腎・泌尿器疾患」の各章の執筆と編集にあたった。Loscalzo博士の加入は,第12版から編者をつとめてきた尊敬すべきBraunwald博士に訪れる『ハリソン内科学』からの引退に備えて,編集をスムーズに移行するための措置である。

Part 1/臨床医学総論には,医学における国際問題と,世界各地の疾患の発生率およびパターンの違いを理解するための枠組みとなる新しい章が含まれている。第 17版は個々の疾患に関連した国際問題を取り上げることを新しい特徴としているが,この章は各章で疾患について論じるうえでの土台となる。また,eチャプターでは,患者管理の質と安全性,医療提供の経済学,医療倫理,医療格差について取り上げている。最後の章では,米国内にも国際的にも人種や民族による医療格差が存在している証拠を示し,これを是正していくためのさまざまなアプローチを紹介する。

Part 2/主要症候は,臨床医学の包括的な序論となるだけでなく,これらの症候を有する患者を治療するための実践的なガイドにもなる。各セクションは特定の疾患群に注目し,こうした共通の臨床症候を有する患者の治療に際して考慮すべき病態生理と鑑別診断の考え方を検証する。主要症状が概説され,特異的な病態と関連づけられ,こうした症状を呈する患者への臨床的なアプローチが要約されている。このパートには新しい章が11ある。第16版にあったすべての章が改訂されており,2つの章については新しい執筆者を迎えた。eチャプターには,発熱に伴う皮疹,疾患の口腔症状,腎生検と尿沈渣,内科疾患の皮膚症状,末梢血と骨髄についてのアトラスが収録されている。高カルシウム血症と低カルシウム血症についての新しい章ではこれらの原因,臨床症状と管理について簡潔に説明しており,Part 15「内分泌・代謝疾患」の詳細な解説を補うものである。新しい章では,月経異常と骨盤痛などの一般的な臨床症状,頭痛の原因と治療,平衡異常への臨床的なアプローチ,錯乱と譫妄の原因について述べる。

Part 3/遺伝学と疾患は,ヒトゲノム計画がもたらした衝撃と,それが臨床医学に与えた影響を反映して,全面的に改訂された。遺伝学から得られた情報が臨床に利用される事例が増えてきたことから,この版ではこれまでに比べて臨床的な記述が増えている。臨床医学における遺伝子導入についての新しい章では,この新しくまだ実験的段階にある治療の原理と戦略について述べる。

Part 4/再生医療は,この版から加えられた新しいパートであり,幹細胞生物学,幹細胞生物学の臨床医学への応用,造血幹細胞,組織工学の章で構成されている。各章では,これらの新興科学分野の現状についてまとめ,再生医療における幹細胞生物学の臨床応用の今後について概説する。

Part 5/栄養は,慢性的な飢餓や急性の疾患を背景とした低栄養から先進国における過食まで,臨床医学と深い関係があるテーマを取り上げる。栄養に関する幅広い専門知識をもつ新しい著者たちが,蛋白質-エネルギー栄養失調症,経腸栄養法や経静脈栄養法についての章を執筆した。肥満の管理と,これを補完する肥満の生物学についての新しい章では,近年飛躍的に理解が進んだ体重や組成を調節する経路について説明し,肥満とその合併症の世界的な増加の予防と治療のために有効な手段を提供する必要性について述べる。

今日もなお,『ハリソン内科学』の核心は,器官系の各種の疾患について論じるPart 6~17にある。これらのセクションでは,主要器官系にかかわる疾患の病態生理および感染症について簡潔に述べ,症状,診断方法,鑑別診断,治療戦略やガイドラインを重点的に説明する。

Part 6/腫瘍学と血液学には,止血異常に関する全面的な改訂を含め,新しい著者による章が11ある。胸腺腫についてのeチャプターも追加されている。腫瘍や血液疾患については新しい治療法が記録的なペースで開発されているため,これらの新しい薬物の作用機序,薬理学,臨床での使用と毒性についても説明する。腎細胞癌,結腸直腸癌と乳癌の治療における最近の進歩についても詳しく取り上げている。改訂された章では,癌の発生における遺伝要因の影響の大きさや,疾患の予後を判定するための遺伝子発現データの使用などについて述べられている。

Part 7/感染症では,感染症の病理学,遺伝学,疫学に関する最新の情報を総括するとともに,正確に診断を下し,時間的制約やコスト抑制の圧力と戦いながら治療にあたらなければならない臨床医のニーズにも対応している。豊富な図版は,手軽に閲覧できる形式の情報源として,そのような重責を担う臨床医の助けになるであろう。いずれの章も専門家によって執筆されており,薬物選択,投与量,投薬期間,代替薬などを含めた具体的な治療計画が推奨されている。近年の抗菌薬耐性の傾向についても詳細に解説されており,治療選択への影響という観点から考察が行われている。グローバルな視点が強調されているこの版の感染症のセクションは,世界各地での疾患の有病率,分布,特徴と管理に関する情報が充実している。

全部で17の章が新しい著者によって完全に書き換えられており,肺炎,細菌性赤痢,狂犬病などの重要な疾患や,Pseudomonas 属,Bartonella属,Listeria属,コリネバクテリアとパルボウイルスによる感染症の管理に関する最近の進歩も取り上げている。真菌感染に関するセクションは一新されており,それぞれの真菌症の権威が専門的な解説を行っている。治療に関連した感染症は,患者管理全般においても抗菌薬耐性との関係においても非常に重要であり,Robert Weinsteinによる解説はきわめて詳細かつ実用的である。大腸菌などのグラム陰性腸内細菌による感染症も重要性を増してきており,これについての章はThomas Russo とJames Johnsonにより大幅に書き換えられ,最新の情報が追加されている。Richard Reichmanが執筆したヒトパピローマウイルスに関するすばらしい章では,最近になって認可され,広く宣伝されているHPVワクチンについての最新の情報と推奨が示されている。また,Anthony S. Fauci とH. Clifford LaneによるHIV感染症とAIDSの章は,治療戦略を中心に,今版でも全面的に改訂された。臨床に役立つ事項を重視しつつ,HIV疾患の病因に包括的かつ分析的にアプローチしていく本章は,当該分野の古典として広く認められており,医学校ではHIV感染/AIDSに関する唯一の完全な参考文献として利用されている。

第 17版では,近年,免疫不全患者や高齢患者に重篤な疾患を引き起こして重大な問題になっているバベシア症に関する章を新たに追加した。DVDには臨床的に重要な3つの章が追加されており,発熱に伴う皮疹のアトラス,マラリアとバベシア症を引き起こす寄生虫のさまざまな段階を示す血液塗抹のアトラス,そして寄生虫感染治療薬の薬理学について詳述する章が収録されている。

ハリソン内科学 第3版 学生時代に必ず通読すべき教科書であり、臨床研修では首っ引きのリファレンス そして、医師としての生涯の座右書として最良の教科書 />
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