特別座談会 医学生・研修医にとっての『ハリソン内科学』とは?

「重要なことの羅列」ではない『ハリソン』

藤川・鈴木

小林『ハリソン』と他の教科書との得るものの違いは感じますか?

藤川重要な疾患に対する熱意だったような(笑)。量が多いというのもあるし,病態生理も詳しいですし,先生からも『ハリソン』が一番しっかりしていると聞きました。それから中毒とか炭疽菌とか,何を見てもわからないことが,ふと見たら『ハリソン』に結構載っていて,衝撃だった。載っている疾患の範囲が広いと思います。他の教科書にはたとえば皮膚科がなかったりしたものがありました。

吉田学生がよく使う参考書の中には,ただ単に重要なことを羅列しているだけのものがあるじゃないですか。それを読むと,確かにこの疾患ではこのことが重要だとわかっても,なぜそれが重要なのかイマイチ見えてこないので,成書を読みたいという気持があるんです。そういう意味で『ハリソン』にその辺の説明が載っているのならば読みたいと思う。

藤川確かに他の参考書だとこれが重要だというポイントはわかるけど,なぜなのかという疑問には答えてくれない。でも『ハリソン』にはそれが詳しく書いてあるし,病態生理も載っているから理由がわかる。そういった意味では,『ハリソン』をある程度通読して,全体の構成を理解しておくことは重要だと思います。

小林

小林僕が他の本と全然違うと思っているのは,実は僕は途上国に興味があるのですが,最初の章に国際保健というセクションがあって,読むと面白い情報が載っているんです。たとえば途上国というと,みんな感染症で死んでいるんじゃないかという印象があると思いますが,一部の地域を除いては,6 割から7 割の人は非感染症の心臓の病気とか,先進国と同じ病気で死ぬと書いてある。あるいはたとえば頭脳流出の問題。エチオピアに住んでいるエチオピア人の医者よりもシカゴに住んでいるエチオピア人の医者の方が多いとか,僕に衝撃を与えてくれるようなことが載っているので,それは全く他の本には無い感じです。視点が非常に広い。医者の知識は基本的にどこへ行っても一緒なので,海外の人も同じように『ハリソン』を使って勉強している。『ハリソン』は世界のもの,そういう安心感がすごくあります。

『ハリソン』は国家試験に" 使えない"?

小林・林・吉田

小林『ハリソン』と学校の試験や国家試験とのギャップ,つまり『ハリソン』で勉強していたら国家試験や学校の試験に通るのかなということが不安になると思うんですけど,その点はいかがでしょうか?

僕は今のところ試験は通ってきています(笑)。『ハリソン』だけで勉強すると,少しは厳しい部分があるかもしれません。医学部の勉強は良くも悪くも周りとペースを合わせたり,敷かれたレールに乗ることが大事な時期もあると思いますので,そこは柔軟に,忙しいときは『ハリソン』ではなくてテスト対策に集中するとか,そういうことは必要。でも時間があるときは『ハリソン』を読んだ方が絶対ためになると思います。

藤川私もテスト直前はテスト対策に徹して,余裕があるときはテーマに合わせて成書で知識を高めるという,そういう使い分けを自分の中でしています。

小林どこの大学でもテスト対策は必要だと思う。でも,先生方はそれを要求していません。研修医になってもそれは同じで,病棟に簡単な参考書の類いを持っていくといやな顔をされる。

林

『ハリソン』で試験は通りますかという質問自体,ちょっとナンセンスな気がします。『ハリソン』は内科学書であって試験対策本ではないですし。『ハリソン』で勉強する友だちはみんな試験にとらわれ過ぎずに,将来よい医者になろうという思いの強い人が多いと感じます。『ハリソン』だけをやって国家試験に受かるかどうかはわからないですけど,ベースになる知識だとは思うので,『ハリソン』をやっていれば,あとは問題演習だけで何とかなるのではないかという印象はあります。ただ,『ハリソン』を読まずに問題演習をやると,何となく問題を解いて,間違えて,その理由がわからず次にまた間違えるということになる。

小林国家試験で言えば,たとえば今年のクローン病と潰瘍性大腸炎の違い。あれなんか最終的には語呂合わせで頭にたたき込まないといけない部分もあるかもしれないけれども,語呂合わせを忘れたときに,しっかりと病態を理解していればクリアできる,答えを出せるのではないかと思います。

藤川最近の国家試験では病態生理のことを結構聞かれるんです。

小林知識がなくても病態生理がわかっていれば解けるものも少なくない。

鈴木先ほどから何度も出ていますけど,病態の理解はやっぱり重要なんですね。読んで内容を覚えるだけでなく,『ハリソン』を読んでいくことで病態のことから考えていく習慣がつくという...。

最近読んだ『ティアニー先生の臨床入門』( 医学書院)という本にも,『ハリソン』のような教科書を読むのは病態の理解のためであるという内容がありました。

小林病態の理解ができれば,どういう症状が出るか,そしてどんな検査をし,どう治療したらいいか想像がつくと思うんです。たとえば脳梗塞と脳出血とは治療方針が違うんですけれども,血管が破れているのか詰まっているのか,イメージできれば簡単な話,その違いがわかると思う。

2011年1月10日 医学界新聞 レジデント号掲載 PDF版ダウンロード(4.2MB)