カンデル神経科学

今すぐ注文

序文

  • 日本語版監修者序文
  • 献辞
  • 原著序文
  • 謝辞

日本語版監修者序文

『カンデル神経科学』が,1981年の原著初版発行以来,33年目にしてようやく日本語版発行のはこびとなったことを心から喜びたい。本書は原著第5版(2013年)の翻訳である。この間,本書は,日本のみならず世界中の大学・研究室で,神経科学・脳科学を学ぶものにとっての――学生,大学院生はもとより,自分の専門領域外の知識のアップデートを図りたい熟練研究者にとっても――頼るべきスタンダードとなってきた。

第5版序文に述べられているように,本書は改訂を重ね,神経科学という学問領域そのものの発展とともにその内容を一新し続けてきている。ヒトゲノムに関する知識の蓄積や分子レベルの研究の進展によって,重篤な遺伝性神経疾患――筋ジストロフィー,網膜芽細胞腫,ハンチントン病,筋萎縮性側索硬化症(ALS),一部のアルツハイマー病など―― にかかわる責任遺伝子や関連遺伝子の同定をはじめ,近未来の治療さえもみすえた病態解明もなされつつある。同時に,新たな分子遺伝学的・光学的手法により,神経細胞や神経回路の活動を操作して行動を変化させることが可能になりつつある。感覚・運動・認知などを実現するプロセスにおいて,複数の神経回路が脳の各所で同時に並列的に情報処理を進めるようすも明らかになってきた。こうして,いまや,意識下で進行する並列情報処理群のもつ精神機能や行動に対するインパクトが明らかになったことによって,何世紀も続く謎の深淵すなわち「意識」や「自由意思」の原理にわれわれが挑むことができるときも近いとの期待が高まっている。古代デルフォイのアポロン神殿入口に刻まれた金言には「汝自身を知れ」とある。この古代の問いを科学的方法によって問うことのできる神経科学こそが,21世紀に生きるわれわれの科学最前線であるとの意義を強調したい。

本書はさまざまな読者へのよき入門書であり,さまざまなやり方で本書を使うことが可能である。詳細な情報や特殊な話題は読み飛ばしても差し支えない構成になっている。しかし,学生時代には,まずはこの本を通読してほしい,と私たちは願っている。この本に盛られている" 分厚い" 知識と見識をわがものとしてほしい。日本の学生は,往々にして,自分の専門のことしか知らない傾向がある。しかし世界を見渡せば,そんなことはない。自分の専門から少し離れたことでも,きちんと議論できる人が多い。そうした幅や奥行きが,研究者を成長させるのである。本書によって神経科学の現在について正確な情報・知識を得ることはもちろん重要であるが,さらに本書を通読することによって,読者が,現在自分のいる場所(研究をしている領域)を俯瞰的にみられるようになることを期待したい。

わが国の神経科学・脳科学は,長期的展望として,自然科学のみならず人文学・社会科学をも視野に入れた総合的人間科学の構築に寄与することをめざしている。本書にはそうした夢に学問的基盤を与える力があると信じている。

金澤一郎
宮下保司

脳科学の頂点 カンデル神経科学 2014年4月23日発売 今すぐ注文する
 トップへ戻る