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 症例検討

虚血再灌流障害

   臓器において虚血が惹起され,時に再度血流が回復する場合に再灌流現象が認められる。この現象自体は,血流が回復する意味において有意義であるが,その一方で臓器障害が惹起されるという二面性を有する。このような状況で認められる障害が,再灌流障害と呼ばれている。臨床では,臓器移植後の血流再開後の臓器障害,心筋梗塞に対する経皮的冠動脈形成術後や人工心肺下心臓手術後,肺切除時の片肺換気から両肺換気に戻した際の再膨張性肺水腫,消化管の吻合後,動脈閉塞(脳,心臓,大動脈)に対する血栓溶解療法(または血栓除去術)施行時,脳ではくも膜下出血におけるtemporary clipping後の脳浮腫の増強現象や頸動脈狭窄における頸動脈血栓内膜摘除術後の脳血流の過剰な増加hyperperfusionなどがしばしば経験する病態である。
   再灌流障害は,虚血が広範囲でかつ長時間であれば,虚血臓器のみならず遠隔臓器にまで波及し重篤な障害をもたらすことが示唆されている。その原因としては,好中球や血管内皮細胞などが注目され,フリーラジカル,細胞内Ca2+過負荷,サイトカイン,接着分子などの一過性の亢進が挙げられているが,再灌流障害を引き起こす真の標的分子はいまだに明らかとなっていない。近年,再灌流障害には炎症に類似した側面を有することも報告され,全身性炎症症候群(SIRS)の観点からこの病態をとらえ直す動きもある。私自身も,移植後の血流再開に伴う再灌流障害と思われる大量出血を経験したことがある。
   このように,再灌流障害は通常の麻酔業務の中で身近に起きている現象ではあるが,実際に重篤な病態に遭遇したとき,われわれ麻酔科医がどのように対応すべきかという点では一定の見解が得られていないのが現状である。そこで,今回はまず再灌流障害の標的となりやすい心臓,大血管に焦点を絞り,その道の専門の先生方に検討をしていただいた。そのエッセンスを吸収し,診療に役立てていただければ幸甚である。

東京医科大学八王子医療センター 麻酔科   内野 博之