ハリソン内科学 第5版

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書評

評者:寺沢秀一先生福井大教授・総合診療部/福井大病院副病院長

医学部卒業と同時に沖縄県立中部病院で1年間のスーパーローテーションをした。平均睡眠時間3時間で、さすがに本を読む時間も気力もない一年だった。2年目に内科の1年目の研修医(今でいう後期研修1年目)となり、常時25人の主治医をするという過酷な研修だったが、『ワシントンマニュアル』だけは読んだ。主治医となった患者の疾患に対応する部分を拾い読みするような読み方だったが、1年が終わる頃にはぼろぼろになった『ワシントンマニュアル』に愛着を感じ、長く手放せなかったのをよく覚えている。

次の2年間で内科のシニア研修医として、中部病院の内科のすべてのサブスペシャリティを数ヶ月ずつローテーションした。今思い出しても豪華な米国帰りの指導医軍団と、1年目の内科研修医の間に立つシニア研修医として後輩を教える立場となり、その2年間で必死に『ハリソン』を読んだ。神経内科をローテーションしている期間には神経内科の部分を、消化器内科の期間中には消化器の部分をと、患者が入院するごとに『ハリソン』を読み、翌日その知識で1年目の内科研修医を指導する2年間であった。患者のほとんどが内科1年目に主治医を経験した疾患であったため、『ハリソン』を読んでいて砂が水を吸収するような勢いで知識が自分の中に入り込んでくる実感を味わった。生涯で最も自分が伸びた時期であり、この時期が今の自分を支えていると確信している。内科研修の1年目の経験があったからこそ『ハリソン』を読みこなすことができたと思っている。

当時の黄色い表紙の『ハリソン』を閉じて机の上に置くと、ローテーションし終わったサブスペシャリティに相当する部分が手垢で汚れ、読んでない部分との境界が鮮明となり、それぞれの部分を読み終えた達成感にひたった。汚れていく部分が次第に増えていくことを無邪気に喜びながら、しばしば『ハリソン』を撫で回して一人でニヤニヤしていたことを覚えている。『ハリソン』の同じ部分を何度も繰り返し読み、本に愛着をもてるくらいに読み込むことが臨床医としての自信を生むことも知った。

自分のどこかで、あの膨大な『ハリソン』を日本語に訳すなどということは不可能だと決めつけていたので、日本語版が出版されたのをみて愕然としたものである。訳された方々と出版社の方々のご苦労に心から敬意を表し、一人でも多くの医学生、医師に『ハリソン』を読まれることをお薦めしたい。

「医学界新聞」第2682号(2006年5月15日号)より転載

ハリソン内科学 第5版
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