特別座談会 医学生・研修医にとっての『ハリソン内科学』とは?

勉強の" ベース",あるいは" 軸" となるのが『ハリソン』

ハリソン見本

吉田『ハリソン』を読んでいてよかったと思うことはありますか?

僕は何度か海外の病院で実習をしたことがあるのですが,先ほど小林さんもおっしゃっていたように,『ハリソン』によって得た知識は世界的に共有し得るものです。外国の先生は『ハリソン』や,外科だったら『サビストン(Sabiston Textbook of Surgery)』とか,そういう成書を必ず通読しているような印象でした。「この病気は『ハリソン』にも載っているよ。知らないの?」みたいな感じで話しかけてくるし,外来で診てわからない患者さんがいると,必ずそこには『ハリソン』があって,「これをちょっと読みな」と言った具合に,気軽に皆さん使われています。

吉田海外でもシェアが高いのでしょうか

---  世界的には,この『ハリソン(Harrison'sPrinciples of Internal Medicine)』と『セシル(Cecil Textbook of Medicine)』が二大内科学書とされています。

吉田

吉田そうすると世界の医学生と肩を並べるという意味でも,今のうちに読んでおいた方がいいと...。

日本は海外に比べて病棟に出るのが遅いのですが,病院実習で自分の担当の患者さんが肺炎だったり,心筋梗塞だったりしたときに,その疾患について『ハリソン』で調べようとすると必ずものすごい量で載っています。臨床で必要とする情報にとても長けています。海外で『ハリソン』があたりまえのように使われているのは,向こうのメディカルスクールの学生にとって病院実習のウエイトが高いからなのかなと思うんです。日本も今後病院実習を増やしていこうという方向で,臨床に即した勉強をするようになってきているので,これからはもっと『ハリソン』が活躍するというか,自然と必要とされるようになるのではないかと思います。

---  現状では,医学部の授業と実習,それと臨床に出たときの間の乖離が少しあるということなのでしょうか?

そうですね。

小林学ぶべきことは試験と病院実習とでは違いますし,大学によっては学内試験対策と国家試験と病院実習が全部違う場合もある。そうした状況において,『ハリソン』はすべての勉強のベースになると思います。

藤川

藤川私の場合は,授業と実習と国家試験対策が5 年生まではバラバラの内容で,6 年生になって授業が国家試験向けになったのですが,すでにバラバラに慣れてしまっているので,最初の知識をつける段階で『ハリソン』を使っていればいいかなと気楽に考えています。先生に勧められる本のスタンダードな基盤でもあるので。

小林どの教科書でもそうですけれども,読んだことすべてを覚えられるわけではない。ただ,こういう分厚い本を読もうという気概が大切かなと思います。研修で疲れていても,寝る前にぱっと開いて気になるところを見たりするのですが,学生のときからこれに慣れていないと,忙しくなったらますます読めなくなるのかなと思います。

鈴木まだ臨床に出たことがないのですが,臨床に行くにあたっての軸みたいなものができそうだと思いました。わからなくなったときに,まずはこれを読んでみようという...。

それはすごくありますね。

藤川3 年か4 年のときにはじめて女性医学や老人医学の章を読んだのですが,まだそのようなテーマの授業を受けたことがない自分にとって珍しい章で,そういった切り口でいろいろな疾患をまとめてとらえるという概念を持っていなかったので,面白いなと思いました。日本の型にはまらない見方もできるかなと。

吉田日本との違いと言えば,SGL で『ハリソン』を使ったときに,疫学データが世界のシェアになっていて,日本人向けの疾患にはマッチしてないと思うことがありましたが...。

藤川それは私もありましたが,そういうところは授業や別の教科書で補いました。私の学校では,この疾患はどのくらい世界で罹患しているかも,国内でどのくらいかも聞かれるので,両方の知識が必要なんです。

小林たぶん『ハリソン』だけで医学部を乗り切る人はあまりいないと思う。何かしら組み合わせる別の本を持っているはずです。それでは,『ハリソン』を使いこなしているかという点に関してはいかがですか?

藤川最初は使いこなそうとは思わなかったですね。分厚いから読みこなせるのかという不安がなかったわけではないんですけど,授業で扱った疾患とか,前に見たことのある疾患とか,そういうのから気軽に読んで。

使いこなそうという想いはありません。ただ,先ほどおっしゃっていたように軸とする本としては信頼がおけます。

藤川軸となる本というと,確かに,根拠を示すときに,『ハリソン』を出すと先生が納得するということもあるかも...(笑)。

小林国語の教科書と『広辞苑』の違いみたいなもので,必ずしも通読することを求められていないし,今年すべてを理解しなければいけない本じゃない。たぶん5 年経っても常に使う本なので,5 年後までに理解できればいいと思っていれば気楽に買えるし,そう考えたら他の参考書を揃えるより安いんですよね。1 年で6 千円ですから(笑)。

2011年1月10日 医学界新聞 レジデント号掲載 PDF版ダウンロード(4.2MB)