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 徹底分析シリーズ

痛みのバイオロジー

術後痛や慢性痛を扱う麻酔科医にとって「痛み」は最大の関心事である。米国では2001年からの10年間を"Decade of Pain Control and Research(痛みの10年)"として,痛みに関するさまざまな問題に国家的規模で取り組んできた。この間に精力的に研究が進められ,分子生物学的,生理学的,形態学的な痛みのメカニズムの解明が一気に進んだ。

日本でも,慢性痛に対する新しい薬物が次々と発売され,神経因性疼痛に対する薬物治療ガイドラインも発表された。また近年,厚生労働省が慢性の痛み対策研究班を立ち上げ,ようやく国を挙げての慢性痛に対する取り組みが始まった。

しかし,これで慢性痛が解決したわけではない。痛みは不快なばかりでなく情動も含んでいる。特に,脳機能解析による研究の進歩により,情動が痛みにどのようにかかわっているのかが明らかになってきた。今後の脳における痛みの認知と制御機序の解明が慢性痛の克服につながると思われる。さらに,動物研究から開発された鎮痛薬が,臨床で鎮痛効果を認められないということが相次いで明らかになり,いかにして基礎研究と臨床のギャップを埋めるのか,トランスレーショナルリサーチをどのようにしていけばよいのかを,もう一度考える必要がある。

本徹底分析では,麻酔科医が知っておくべき痛みの経路を末梢から大脳へと順を追って各執筆者が解説している。痛みのバイオロジーに触れ,改めて痛みを科学してみるのもよいのではないか。

河野 達郎