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 症例検討

電気刺激装置植込み術の麻酔

生物には化学系(液性に連絡し,受容体を介して作用する)と神経系(電気的に連絡している)の二つの制御系が存在する。この二つの制御系は独立しているものではなく,互いに影響を及ぼし合っている。

麻酔科医は,薬物を使って意識や痛みなどのさまざまな神経機能をコントロールしているが,それは電気的に直接行っているわけではなく,化学系を介した間接的な制御である。麻酔に限らず医学では,薬物などの化学系の制御方法をとることが一般的であった。しかし医学の発達とともに,化学系では効果が不十分,あるいは無効な場合には,電気的に直接神経系へのアプローチが試みられるようになってきた。

本症例検討では,現在行われている四つの電気刺激装置植込み術を取り上げる。これらの麻酔管理に当たっては,治療対象の原疾患に対する配慮が必要なことは当然であるが,それぞれの手術で特有な対応も要求される。例えばICD埋め込みでは,神経刺激の効果を確認するために,実際に心室性不整脈を起こして正常に作動することを確認したり,Parkinson病の脳深部刺激装置留置術では,意識下手術を選択したりと,麻酔科医はその要求に応えていかなければならない。

このような神経系を直接電気的にコントロールしようとする試みは,さまざまな領域で行われているが,将来的には大脳皮質に直接信号を入力する,あるいは出力させるbrain machine interfaceへと進んで行くだろう。そこには,従来の方法では治療不能と判断されていた患者が待っている。われわれも知識をupdateして,備えておかなくてはならない。

金沢大学医薬保健研究域 麻酔・蘇生学 坪川 恒久