ハリソン物語

第4版 1962年・M.M. Wintrobe

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エトナ山にも登った。この山の醍醐味はケーブルカーの終着駅からはじまるのだが,強い向かい風に逆らってもろい溶岩の上を歩くのは骨が折れ,女性陣の中で挑戦したのはMartha Bennett だけだった。男性陣は二人一組になって,別々の道を進んで行った。Adams とThorn は,いかにも眺めが良さそうな噴火口の頂上に登り,できれば中に降りてみようと計画した。Bennett と私は,山の周囲に沿って歩きながら少しずつ登っていこうとし(最初のうちはMartha も一緒だった),Harrison とResnik はさらに無難なコースを選んだ。Bennett と私が溶岩の上をどんどん歩いていると,ついに警備員に制止されてしまった。ときどき火口から岩石や溶岩が飛び出してくることがあり,当たると危ないというのである。実際,われわれは退却する前に,自動車ぐらいの大きさの岩が小石のように空中に放り出される様子を写真に撮影することができた。Thorn は,もう少しでたいへんな目にあうところだった。彼がいた場所からは,噴火口の中に降りるのは簡単そうに見えた。そこで少し降りてみると,途中で風向きが変わってきて,ついには何も見えなくなってしまったのである。やがてふたたび風が変わり,どうにか逃げ出すことができたのだが,あのまま行けば,もう少しで道を見失い,有毒ガスにまかれてしまうところだった。

打ち合わせが終わる前の晩には晩餐会が開かれて,地元の医学校のSignorelli 教授と夫人が招待された。ホテルのスタッフは総出でこの催しを盛り上げてくれ,シェフは『ハリソン内科学』にそっくりな特製のマジパン※2ケーキをつくってくれた。その表紙には,大きくHarrison の名が記されていた。

※2訳注:すりつぶしたアーモンドに砂糖を加えて煮つめ,練り上げて着色した菓子