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症例検討
肝切除の麻酔
肝切除の技術と周術期管理の最近の進歩はめざましく,肝切除はどこの施設でも行える「安全な手術」になりつつある。全国集計のデータからみると,肝癌手術の死亡率は1970年代には20%を超えていたが,最近では全国平均で2%以下になっている。しかしそのなかで,術中出血は肝切除が行われ始めた19世紀末から今日に至るまで,肝切除の最も大きな問題であることに変わりはない。出血量を減らすためには肝臓外科医の技術と努力だけではなく,麻酔科医との協力が不可欠であることを今回の症例検討のなかで読みとっていただけると思う。幸いなことに,ここに提示したモデル症例のような緊急事態に遭遇することは最近少ないが,肝切除の経験の豊富な施設での「有事」における考え方や対処法を述べていただいた。「出血量の少ない肝切除ができた時に,外科医は自分の実力と思ってはいけない。上手な麻酔をかけていただいた麻酔科医に感謝すべきである」とは,わが師,幕内雅敏教授の口癖である。
東京大学医学部 肝胆膵外科 國土 典宏