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症例検討
心膜疾患患者の麻酔
心臓は心膜に包まれた心嚢内に存在しているため,心膜や心嚢内の異常は血行動態に大きな影響を及ぼす。心膜疾患や,心嚢内への血液や体液の貯留により,心臓の拡張障害が起こる。そのために1回拍出量が減少し,低血圧となり,さらには心筋虚血が起こる可能性もある。心嚢内への血液・体液の貯留速度により,血行動態変化も異なる。心臓手術後や心破裂,大動脈解離による心タンポナーデのように急速に血液が心嚢内に貯留した場合には,それだけ血行動態変化も大きくなる。
これらの病態をもつ患者の麻酔は,麻酔科医に大きなストレスとなる。一方,慢性的に進行した収縮性心膜炎の心膜切除術では,しばしば麻酔科医には根気が要求される。出血に苦しめられる場合もある。血行動態の観血的監視のほか,経食道心エコー法,ペーシングなどの高度な技術も必要であり,大きな血行動態変化を避けるためには慎重な麻酔管理が必須である。
今回は,収縮性心膜炎および心タンポナーデの周術期管理について検討する。
稲田 英一