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症例検討
癌性疼痛と神経ブロック
わが国の死亡原因の第一位を占める病気である癌は,患者の生命を脅かすだけでなく,時として「癌性疼痛」という病態を引き起こし,患者に苦痛と死への恐怖を与える。
近年,WHOによって体系化された癌性疼痛管理法が広く普及し,優れた薬物の出現も重なって,これらの痛みに対する除痛率が向上してきたことは大変喜ばしいことである。その一方で,ペインクリニックに携わるわれわれ麻酔科医のなかで,どのくらいの方がWHO方式の疼痛管理法を正確に理解し,さらには神経ブロックの技術を駆使して「癌性疼痛」を良好にコントロールすることができるのだろうか。麻酔科医として,他科の入院患者の「癌性疼痛」管理の依頼を受けて,自信をもって患者の痛みと向き合うことができる麻酔科医はどのくらいるのであろうか。
「癌性疼痛」管理は,ある意味では,その患者の人生と向かい合うことを意味するのではないかと私はいつも思う。痛みを有する患者の苦悩を取り除くには,全人的なアプローチが必要とされ,それは逃げ場のない真剣勝負と言える。癌患者が,癌性疼痛コントロールのために大量の鎮痛薬を内服したり血管内に投与され,その副作用に苛まれる現実を何回も目の当たりにしてきた。そんな患者に対して施行した,ただ1回の神経ブロックが患者を痛みから解放し,鎮痛薬を軽減もしくは廃薬に至らせる効力は,驚くべきものである。まさに,起死回生の一撃と言える。
今回は「癌性疼痛」を取り上げ,各種疾患に対する神経ブロックに焦点を当て,この分野における達人の先生方にいぶし銀の技を披露していただいた。実際の症例に対する疼痛管理の妙を学んでいただければと思う。
東京医科大学八王子医療センター 麻酔科 内野 博之