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 徹底分析シリーズ

腎移植の麻酔

   わが国は世界一の透析国となっています。欧米では透析期間が短いか,透析をしないですぐ腎移植をする,プレエンプティブ移植が盛んですが,日本では,移植医療そのものが社会的にも,医療者側にも理解と経験が少なく,ドナー不足に加えて,施行できる施設も少ないのが現状です。その結果,わが国では腎不全治療は,ほとんどが透析に頼っています。日本では,約120~140の施設で年間約800~860症例の腎移植手術が行われており,心臓,肺,肝臓,小腸などに比較して,数からいえば他臓器の移植よりその麻酔管理に携わった麻酔科医も多いのではないでしょうか。私自身,2003年12月まで東邦大学医学部付属大森病院麻酔科にて250例近い腎移植の麻酔を経験しました。
   腎移植の麻酔管理上,レシピエントでは,以下の問題点があります。・移植腎の腎血流量を維持するために十分な血圧,心拍出量を保つ。・このため十分な容量負荷が要求され,心肺への負担が高まる,・移植腎への血流再開時に急激な循環動態の変動がみられる,・長年の透析や代フドナー管理で汎用される内視鏡下の手術ではどのような注意が必要か,などがあげられます。
   今までの麻酔管理本の腎移植の項は,ほんの数頁あるいは数行で,総論的な話しかなく,あまり実用的ではありませんでした。今回の徹底分析は,まず専門の移植医に日本の腎移植の現況や腎不全患者の特異性,移植時の麻酔科医の役割について解説いただき,さらに腎移植を実際に多く手がけている病院の麻酔科の先生に,その経験を踏まえた麻酔管理のコツとポイントについて解説していただきました。腎移植を経験された麻酔科医には新たな戦略のヒントに,また今まで全く経験がない先生方にもおおまかなイメージがわき,コツとポイントが理解いただけたらと思っております。

東京臨海病院 麻酔科 佐々木 順司