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症例検討
消化管出血への対応
ショックとは末梢循環不全=組織酸素需給の不均衡状態。低血圧のことではないよ」と医学生に教えることになっているが,こんな無機質な定義で生の患者のイメージが浮かぶだろうか。
蒼白で不穏。鈍い視線。じっとりと湿った冷たい手足。脈は触れるが速く弱い。看護師を急かせてようやく測らせた血圧は「上は50,下は測れません」。声も上ずる。出血性ショックこそ,やはりショックの王座たるべし。出血性ショックと聞けば,重度外傷,術中出血,血管病変,婦人科疾患もあろうが,まず頭に浮かぶのは消化管出血ではないだろうか。病院がどこにあってもギリギリの状態で飛び込んでくる吐下血症例が,今後もなくなることはあるまい。
でも,「最近,出血の緊急手術がめっきり減ったなあ」と腕を撫す外科医の声も耳にする。確かにこの20年間のH2ブロッカーやPPI,内視鏡下止血,IVRなどの発達普及は著しい。言うまでもなく治療手段,選択肢が増えたことは進歩だが,現場判断のうえではかえって悩ましくもある。適応判断や対処を誤るとドツボに嵌まる虞がある。
・・・・・・さっきから救急外来が騒がしい。どうやらまたショックの患者が搬入されたようだ。
須崎 紳一郎