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症例検討
術中心停止への対応
麻酔中に心停止が発生することは非常にまれであり,遭遇すると我を失って何をしていいかわからなくなってしまう。心停止が側臥位や腹臥位,さらには開頭術中のような特殊な状況下ではさらに混乱してしまうだろう。しかし,基本は人手を集めることと,A,B,C,すなわち,気道の確保,呼吸,胸部の圧迫(あるいはその他の方法による循環維持)であることが,今回の徹底分析からも明らかである。蘇生が成功するか否かは,原因をいかに素早く診断し,原因に応じた蘇生法ができるかどうかにかかっている。
今回の症例検討を読むと,心停止の手がかりの多くは,綿密な術前評価(冠動脈疾患のリスクファクター,術前の鎖骨下静脈穿刺,手術術式など)と術中の注意深い観察(心電図変化,呼吸音,胸郭の動き,カプノグラム,パルスオキシメータなど)によって得られることが,まるで推理小説を読むかのように明らかとなってくる。しかし,麻酔中はそのような時間はないので,術前評価と術中操作などから,心停止もあり得ると予想して麻酔を施行し,心停止が発生したときの手順を常にイメージトレーニングしておくと,慌てることなく対処が可能となるであろう。
挿管困難のアルゴリズムと同様に,心停止に対するアルゴリズムを頭に入れておくべきである。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 心配統御麻酔学 槇田 浩史