バックナンバー
症例検討
胸部大動脈瘤の麻酔
胸部大動脈瘤の麻酔では,大動脈瘤の相対的な位置関係の違いによってさまざまな手術アプローチが存在し,それぞれに対する補助循環の方法や利用される各種モニタリングの要点など,十分な理解を必要とする。以前の胸部大動脈瘤手術では,出血との戦いが大きな問題であり,血圧や血管内容量の維持に努めることが麻酔科医にとって最重要課題であったが,最近では,手術手技や人工血管素材の進歩,あるいは輸血副作用に対する配慮から無輸血で行われる場合も決して少なくない。したがって,臓器保護や術後鎮痛,術後早期回復といった麻酔の質が問われる問題に焦点が移りつつあるのは,歓迎すべき事柄だろう。
今回の症例検討では,胸部大動脈瘤の麻酔における重要臓器の保護を縦軸におきながら,各手術アプローチに対する麻酔法の要点をそれぞれのエキスパートに述べていただいた。心大血管手術による合併症発生率は,ある程度,当該施設の年間症例数に依存する傾向が示されているが,その発症に関わる患者因子・手術因子・麻酔因子の内,技術向上によって改善が可能な後二者については絶え間のない研鑽努力が必要であり,本特集に述べられた内容が読者にとってその一助となれば幸いである。
慶應義塾大学医学部 麻酔学教室 津崎 晃一