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 症例検討

TEEを使いこなそう

   TEEの術中における役割は当初は僧帽弁形成術などの特殊な手術評価に使われていたが,その後術中の心機能評価,空気塞栓の予防などの心臓麻酔における安全管理につながり,現在では手術治療の最終評価を行っている。しかし,TEEの評価はoverestimationとunderestimationが常に存在し,患者の予後を左右する。日本心臓血管麻酔学会を中心としたJBPOTが設立され,心臓麻酔における経食道心エコー(TEE)試験がすでに2回行われているが,その難関度はほかの専門医試験の比ではない。これはTEE評価が患者の生命に直結すると考えているためで,心臓麻酔専門医につながっていく一つの過程である。
   TEEによって呈示される画像を単に評価するのではなく,TEE留置で何を予想するか,あるいはどのような術式を推奨するかが今後のTEEの重要な役割である。また,手術対象となっていない合併疾患(OPCAB予定における僧帽弁閉鎖不全症など)の評価にはその内科的予後の知識も必要であり,透析患者ではどのように弁が石灰化するか,またstentless graftではその術式の把握が重要であり,wet labなどを通じた解剖学的知識や外科医に負けない術式の理解などの知識の集約が必須である。
   また,小児疾患では,解剖学的形態を変更して心機能を改善するのが手術の役割であり,TEEの重要度と難易度は成人のそれよりさらに高い。この分野では,日本の知識の集約が欧米よりも早い。最近は小児用omniplaneも開発されており,小児TEEの有用性は高まっている。
   以上のような問題を背景に考えて,今回は成人と小児の症例を呈示していただいた。TEEを解析するには,術前の一般心機能評s価だけでは不十分であり,術前の心臓カテーテルや心エコーを呈示された心臓外科医とのカンファレンスにより,心臓外科医が何を目標に術式の戦略を組み立てるのか,循環器内科医,循環器小児科医が個人のライフスタイルや子供の成長をどのように願っているかなどを十分把握しないと,安易な術式の追加や変更は許されない。
   わたしどもの施設はこのような,外科や内科,小児科の手術カンファレンスを毎週行い,小児心臓カテーテルにも参加して術前の動的検査から把握する心臓麻酔チーム(TCAT)を設立したが,本稿はその一環としての麻酔科のカンファレンスの記録を中心としている。これは心臓麻酔科医が心臓外科治療に参画してきた一つの歴史であり,TEEを用いたわたしどもの戦いの歴史を一つひとつひもときながら,今後の参考になるような症例の扉の序章を呈示したい。

東京女子医科大学医学部 麻酔科学教室   野村 実