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 徹底分析シリーズ

慢性疼痛に挑む:神経因性疼痛の最前線(その 1)

   IASP によれば痛みは「実際に組織損傷が起こったか,あるいは組織損傷の可能性のあるとき,またはそのような損傷を表す言葉によって述べられる不快な感覚と情動体験」と定義されている。実際に臨床では,術後に創部の痛みが遷延する症例や明らかな組織損傷が存在しないのに痛みを訴える症例に遭遇する。
   慢性疼痛は,痛みを引き起こす原因となった疾患が治癒した後も長期にわたって疼痛の持続を認める場合と治癒が困難な疾患によって長期間の持続性疼痛を認める場合がある。前者の代表的な病態が帯状疱疹であり,後者には関節リウマチや癌性疼痛などの病態がある。慢性疼痛はその起こり方から侵害受容性疼痛,神経因性疼痛,心因性疼痛に一般に分類される。中でも神経因性疼痛はわれわれ麻酔科医が遭遇する機会が多い病態といえる。
   神経因性疼痛とは「神経系の一次的な損傷やその機能異常が原因となる,もしくはそれによって惹起される疼痛」で自発痛,侵害性刺激に対する閾値が低下する痛覚過敏反応,通常痛みを引き起こさない触覚刺激で惹起される激痛(アロディニア)等の症状からなり,一度病態が完成すると慢性に経過し非常に難治性である。慢性疼痛と聞くと取り扱いにくい,治り難い疾患という先入観を持たれる方も多いと思われる。また,何が慢性疼痛なのかどこまで治療が進んでいるのかという素朴な疑問を抱いておられる読者の方にも是非読んでいただきたいと切に願っている。
   そのために,まず徹底分析として慢性疼痛の中の神経因性疼痛の基礎的メカニズムについて述べていただいた。米国では「痛みの 10 年」という概念で,国を挙げて疼痛治療を考える体制ができてきている。日本も,是非このような取り組みをして行ってほしいと願うものである。

内野 博之