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 徹底分析シリーズ

心不全に挑む

   従来,麻酔科における心不全というと,いわゆる急性の low output の状態に対していかに心筋を刺激して心拍出を回復するかということが主要な関心事であった。血管作動薬を縦横に使い分けながら,どのような場合に機械的循環補助に移行すべきか,そのような判断力に急性期医学の魅力を感じてきた方々も多いであろう。一方循環器内科の領域では,β遮断薬や血管拡張薬を用いていかに心臓を保護するかということに力点が置かれてきたと思われる。その成果として,近年心不全患者の予後の改善が多数の mega study で示されてきたが,それらは必ずしも急性期の管理に直結するとは言えなかった。
   しかし最近になり内科領域においても,急性心不全の管理に対するガイドラインが新しく相次いで作成され,心臓をいかに打たせるかということへの意識の高まりが感じられる。一方,麻酔科でもプレコンディショニングや心筋保護というテーマに一層の関心が寄せられるようになり,両者の姿勢に共通項が増えてきた印象がある。麻酔科学と同様に循環器学も日々進歩している。急性期循環管理を大きな柱とする麻酔科においては,その進歩に敏感でなければならない。しかしそれに加えて,そこでの成果を麻酔科領域にどのように生かしていくかも問われてくる。
   以上のことを背景として企画した本徹底分析では,心不全の病態に深く迫った。麻酔科医に有益な心不全の特集として日常臨床に役立てば幸いである。

東京大学医学部 麻酔学教室 張  京浩