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 徹底分析シリーズ

腎臓を守れ! 麻酔科医

慢性腎臓病chronic kidney disease(CKD)は高血圧,糖尿病といったありふれた併存疾患が原因になり得る症候群であり,日本では,軽症なものを含めれば成人の8人に1人という高率でCKDを有すると推測されている。比較的新しい疾患概念であるため,麻酔科医に必ずしもなじみがあるとは言えないが,高い有病率を考慮すると,もはやCKDについて無知では済まされない。CKDが術後急性腎傷害acute kidney injury(AKI)の危険因子であること,術後AKIが患者の転帰を悪化させることは広く知られており,さらには術後AKIがCKDを悪化させる可能性があると考えられている。周術期に用いられる薬物や輸液,循環管理などが腎機能を通して術後の転帰のみならず,その後の患者の人生の質(QOL)に関係しているとすれば,麻酔科医の果たす役割が重大であることは疑う余地がない。

そこで今回の徹底分析では,各分野のエキスパートにCKDの疾患概念の紹介や腎機能を悪化させない周術期管理,万一術後AKIに陥った場合の対応,さらには腎臓と全身臓器とのかかわりなど,多岐にわたる内容について執筆をお願いした。現状では,CKDの周術期管理についてのエビデンスは十分ではなく,麻酔科医が腎臓を守る道は決して平坦とは言えないが,今回の徹底分析が一人でも多くの麻酔科医の知識の整理に役立ち,さらなるCKDの周術期管理の進歩に寄与することを願ってやまない。

石川 晴士
東京医科歯科大学医学部附属病院
麻酔・蘇生・ペインクリニック科