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 徹底分析シリーズ

研修医の素朴な疑問に答えます 血液製剤

輸血は輸液と似ているが,実務上の取扱いの違いに戸惑うかもしれない。このようにお作法が多いのは,もちろんしかるべき理由がある。血液製剤は単なる薬剤ではなく生体由来,輸血は生細胞輸注living cell transfusionであり,同時に組織移植tissue transplantation,同種移植allograftという医療行為である。

さて,私も「血液製剤に関する素朴な疑問」に答えてみよう。

Q 供血者からの原血液取得は日本赤十字社(日赤)血液センターが独占的に行い,かつ「献血」としてタダで得ておきながら,日赤から医療機関への製剤供給は有償〔しかもかなり高価,例えばRCC-LR-1(赤血球濃厚液)は8,402円/パック,これがIr-PC-HLA-LR-20 (人血小板濃厚液) なら190,543円/パックもする〕,すなわち「販売」されている。日赤,これ儲けてません?

A 1936年の国際赤十字社理事会勧告以来,血液事業は世界的にも各国赤十字・赤新月187社が行っています。このうち採血から供血まで赤十字組織が独占している(レベルA)国は,日本をはじめスイス,フィンランド,イスラエルなど22か国です。売血による弊害を契機に,日本では血液の取得はあくまで無償(献血)によることと改められ(閣議決定),1969年に金銭支払い(買血)は廃止されました。  一方,確保,管理,安定供給にかかる業務経費は多大で,必要なら特殊血型に対して国際赤十字を介して緊急国際手配を行うこともあります。特に近年は,安全上の必要から取得血検査の厳格化・個別化が強化され,2014年8月より個別検体ごとにウイルス核酸増幅検査(NAT)を始めるなど,管理コストがさらに嵩んできています。ちなみに日赤血液事業特別会計(2013年)を示せば,事業収入1,674億円に対し事業支出は1,766億円に達し,差し引き92億円の純損失決算です。赤十字なので赤字なんです(なお日赤においては,血液事業と医療・社会事業は独立会計です)。

武蔵野赤十字病院 救命救急センター 須崎 紳一郎