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 症例検討

症例検討 脊髄損傷患者の麻酔

脊髄損傷(脊損)患者の麻酔を担当する機会は,一般の麻酔科医には少ないだろう。しかし,脊損の多くは外傷によって生じるため,若い患者も多く,生命の危機を脱した後の長い経過において,繰り返し手術を受ける場合も多い。つまり,脊損の専門施設でなくても,周術期管理を求められる場面はある。それなのに,脊損患者には頸椎保護が必要であるとか,自律神経過反射autonomic hyperreflexia(AH)が生じるので気をつけなければいけない,ということをなんとなく知っていても,実際に受傷後いつまで頸椎保護が必要なのか,どのレベルの脊損でAHが生じるのか,またどのような刺激でAHが生じるのかをきちんと把握できている読者は少ないだろう。

 本症例検討では,まず,上記のように脊損についておぼろげな知識を再確認していただくために,脊損の急性期と慢性期では麻酔管理上注意すべき点や合併症が大きく異なる点について述べ,続いて,脊損に対する急性期手術の意義について解説した。そのうえで,具体的な症例提示によって,脊損患者の麻酔で注意すべき点を概説している。一見タブーのように考えられている脊損患者に対する脊髄くも膜下麻酔についても取り上げた。脊損患者の麻酔は頻繁に遭遇するわけではない症例だが,だからこそ,本特集をいざというときの参考にしていただきたい。

新潟大学地域医療教育センター・魚沼基幹病院 麻酔科 紙谷 義孝