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 症例検討

妊婦の非産科手術の麻酔

   少子化により,女性にとって妊娠・出産は,以前にも増して貴重な体験となっている。米国では,年間5万人(1.5~2.2%)の妊婦が非産科手術を受けており,虫垂切除術は2000妊娠に1例,胆嚢摘出術は10000妊娠に1~6例の頻度と言われる。一般手術での内視鏡手術の普及に伴い,妊娠合併手術でも腹腔鏡手術症例が増加している。
   妊娠時の非産科手術では,非妊時と同じ手術であっても胎児の生育性を考慮しなければならない。例えば妊婦のくも膜下出血では,妊娠週数により,胎児に注意を払いつつクリッピング手術を施行するか,一期的に帝王切開手術とクリッピング手術を同時に施行する。未破裂の脳動脈瘤の場合には,前二者に加えて麻酔分娩後にクリッピング手術を施行する選択肢や,クリッピング手術の代わりに血管内手術を考慮することもある。このように妊婦の非産科手術では,最善の選択を外科医,麻酔科医,産婦人科医,新生児科医で検討するべきである。
   さらに,通常の麻酔で用いる薬物は,添付文書上は禁忌薬物となっていることが多く,妊娠合併患者の麻酔では,薬物投与の制約や患者へのインフォームドコンセントが要求される。今回は,妊娠合併非産科手術の麻酔方法に関して,各施設での工夫も含めて検討する。

順天堂大学医学部 麻酔科学・ペインクリニック講座   大島 正行