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 症例検討

股関節手術の麻酔

■Anesthesia and Orthopaedic
  Surgery,Geriatric Anesthesia
どこまでも慎重に,そして大胆かつ安全に余談であるが,約 20 年前に遡ると,1 か月の麻酔管理症例 50 例のうち 70 歳以上は 10 例(20 %),80 歳以上は 1 例であった。しかし,最近の 1 か月では 70 歳以上は 53 %,80 歳以上は 38 %である。患者の高齢化は急速に進んでいる。同時に高齢者の整形外科手術,転倒による骨折や加齢など多因子による変形性膝,股関節症への人工関節手術が急増している。こうした手術にかぎったことではないが,特に整形外科手術例では術前術中だけではなく,術後の ADL 向上を念頭においた麻酔管理が求められる。手術・麻酔は終わったが,術後に不穏や痛みで管理に難渋する,リハビリが進まないでは本末転倒である。近年は“認知症”とされる状態の手術症例も増えている。単純に手術の麻酔だけでなく,インフォームドコンセントを含めた全人的な麻酔管理に趨勢は動いている。「ばあちゃん,歳だから,手術さ,無理だと,先生さ,言っとるからなぁ~」こんな会話は昔のことでもなく,今も耳にする。「高齢だから麻酔や手術ができない」と言われたという話を患者家族から聞くことは何度もある。その度に,「そういうことはありません。患者さんの状況に応じます」と話してきた。合併症を多く抱える高齢者だが,長命な“人生のエリート”である。何も起こらなければきわめて順調に経過するが,一度,悪循環に陥れば,坂を転げ落ちる。どこまでも慎重にである。
   本症例検討では,高齢者の股関節手術などについて,各施設,各麻酔科医の考え方,こだわりを述べていただいた。読者諸氏の今後に役立てば何よりである。蛇足ながら本誌 2008 年 12 月号と 2009 年 1 月号は高齢者の大腿骨頸部・転子部骨折について特集している。本号とともに併読されることをお勧めする。

新潟医療生活協同組合木戸病院   本田  完