2週間で学ぶ臨床感染症

感染症がたやすく国境を越える時代

だからこそ必要な

グローバルな視点からのアプローチ




熱帯医学のメッカ、英国のOxford University Press刊Oxford Case Historiesのロングセラー、感染症編の翻訳。 47の症例を臓器別に全8セクションに分け系統立てて解説。Q&A形式で日々の感染症診療に役立つ病態の理解の手助けとなる実践的な基礎知識が2週間で身につく構成。感染症がたやすく国境を越える現状を踏まえ、グローバルな視点をもってアプローチする。 感染症の知識を深めたい医学生,研修医,内科専攻医に最適。



書評『Hospitalist Vol.9 No.3 2021』掲載_評者 岡本 耕 先生



書評『medicina Vol.59 No.2 2022-2』掲載_評者 和足孝之先生

¥4,400 税込
原著タイトル
Oxford Case Histories in Infectious Disease and Microbiology, 3rd Editon
監訳:清田雅智 飯塚病院総合診療科診療部長・的野多加志 飯塚病院感染症科部長
ISBN
978-4-8157-3033-8
判型/ページ数/図・写真
A5 頁392 写真50 図9
刊行年月
2021年10月
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1 日目
Section 1 皮膚軟部組織感染症
症例1~5
2 日目
Section 2 呼吸器感染症1
症例6~9
3 日目
Section 2 呼吸器感染症2
症例10~14
4 日目
復習日1
5 日目
Section 3 消化器感染症1
症例15~17
6 日目
Section 3 消化器感染症2
症例18~21
7 日目
Section 4 泌尿生殖器感染症
症例22~25
8 日目
Section 5 中枢神経系感染症
症例26~30
9 日目
復習日2
10 日目
Section 6 全身感染症1
症例31~34
11 日目
Section 6 全身感染症2
症例35~38
12 日目
Section 7 妊婦と新生児の感染症
症例39~41
13 日目
Section 8 その他の感染症
症例42~47
14 日目
復習日3

症例の診断一覧
カラー写真
索引

2005 年,ミネソタ州ローチェスター市のメイヨー・クリニック(Mayo Clinic)に,感染症科の visiting clinician という立場で,初めて感染症科のトレーニングを 3 か月間にわたり垣間みた。当時の私は医師として 11 年目であり,2003 年からは飯塚病院の血液培養ラウンドを感染管理チーム(infection control team:ICT)として,臨床検査技師さんたちと一緒に,全例,確認していた。総合診療科としての業務に加えて行っていたので,週に 2 回のラウンドが限界であった(そのため,リアルタイムでの助言はできなかったので,厳密な意味でのプロの仕事ではなかった)が,症例数は 1,000 件以上経験してからの留学であった。
先方のフェローは流石に優秀であったが,年を食っている分有利な私は,フェローが答えられない質問に答えたりしていたので,英語はろくに話せないわりに驚かれたこともあった。質問:cefotetan のようなセファマイシン系抗菌薬を使用するときには,出血傾向を気にするが,それはなぜか? 答えは NMTT side chain(N ─ methylthioteterazole)をもっているから。この知識は,“Reese and Betts' A Practical Approach to Infectious Diseases(Philadelphia : Lippincott Williams & Wilkins, 2003)” という本から得ていた。こういうマニアックな質問に答えられるようになるのは,専門研修を受ければ獲得できる知識かもしれない。
しかし,である。3 か月の研修中に得た知識とは何だったのだろうと思い返すと,それは現地で経験した,まれだが教訓的な症例の数々であった。Salmonella による市中肺炎,黄熱ワクチン接種後の臓器障害による死亡例(yellow fever vaccine associated viscertropic disease:YFV─ AVD),脾臓がある患者での Capnocytophaga canimosus bacteremia を伴う歯周炎,脾臓がない患者のバベシア症(babesiosis)でアトバコンを使って救命した症例などが,15 年経った今でもやはり頭にこびりついている。臨床医の頭には,おそらくこういった症例をベースにした知識が,本で知識を増やすことより記憶に定着しやすいのだと感じる。
また,感染症のトレーニングは(どの分野でもそうだろうが),何とも気の長いものであると感じた。扱っている範囲が膨大で,細かいのである。メイヨーで出会った,Walter R. Wilson 教授の博学ぶりには,向こうのスタッフでも「彼がいうのなら」と絶大な信頼があった。ローテーターに黄金比などの純粋な数学の話をしたり,感染症にまつわる偉人の墓を示し,その人の業績について質問したりしていた。Larry M. Baddour 教授の感染性心内膜炎の造詣の深さは,驚くべきものであった。Gemella 属による人工弁の心内膜炎の株で bergeriae というのが出ているというフェローのプレゼンに,「Gemella 属は 9 菌株があって,ヒトに感染するのが確か 7 株で,心内膜炎での報告例のほとんどは morbillorum か haemolysans か sanguinis で,この株は珍しいはずだから PubMed の検索はしたか?」とその場の記憶でいうのである。総合診療のように何でも診るといったスタンスではとても到達できない世界であり,専門性とは何かということに気づかされた。しかし,感染症しか診なくてよいという制約から得られる膨大な症例の経験数と学びが彼らにこれを可能としているに違いない。
私は,MEDSi の佐々木さんから本書の翻訳本としての価値を問われて,この本の存在を教えてもらった。不覚にもこのようなシリーズが 3 版まで版を重ねていたことを知らなかったが,その内容を読んで驚いた。非常にコンパクトながら,基礎的な感染症の知識をきれいにまとめていると感じたのである。この分量であれば,感染症のフェローなら 2週間で読み切れるほどの内容でありながら,さらに網羅的でもある。
メイヨーでは,すべてのローテーターが最初にレクチャースライドと参考図書を指定され,ローテーション中に読むようになっていて,クオリティーをコントロールしていた。
まさに,この分量の内容を,感染症を学ぼうとする医師がブロックローテーションのように,すべてを費やして学んだなら,実は医学生でも感染症の基本骨格ができるのではないかと思いを馳せた。訳本があれば,ぜひとも勧めたいという強い動機の下に監訳を引き受けた次第である。飯塚病院にも長年構想があったもののできなかった,念願の感染症科が2019 年より立ち上がったのを契機に私は感染症の仕事をほぼしなくなった。そこで,大学の後輩でもある感染症科部長の的野先生に,フェローたちと一緒にこの本を訳すことを勧めた。2020 年の COVID─ 19 の対策で多忙のなか,快く引き受けたことには頭が下がる思いである。この本はきっと当院の感染症科の若手の勉強になるだろうが,それにとどまらず,多くの医学生,感染症の研修をしている医師にも手にとってもらい,マスターしていただきたいと強く望んでいる。
最後に,監訳については万全の確認をしたつもりであるが,もし,不適切な訳があるようであれば,それは監訳者である我々の責任である。ご連絡をいただければ幸いである。
飯塚病院総合診療科
清田 雅智

飯塚病院総合診療科の清田先生ならびに MEDSi の佐々木さんから,“Oxford Case Histories in Infectious Diseases and Microbiology” 原著第 3 版の翻訳の話をいただいたのは 2020 年 7 月。当時,国内第 2 波を迎えつつあるコロナ禍真っ只中であったため,少しためらいもあったが,感染症への関心が高まりつつある時の流れがむしろ,私の背中を押した。
英国らしい視点,これが本書に対する最初の所感だ。英国は熱帯医学のメッカである。
その歴史は長く,熱帯植民地における英国人の健康を守るため 1898 年リバプール,1899 年ロンドンに「熱帯医学院」が開設されたことに端を発する。今もなお続いているそのグローバルな観点を本書に感じたからだ。
感染症は容易に種を越える。ヒトに病原性のある微生物の約 60%は人畜共通感染症だ。
そのため,ヒト─ 環境─ 動物にも目を向けるワンヘルスという考え方が必要である。新興感染症の多くは動物・動物産品に由来している。エボラウイルス病や HIV もその一例だ。
グローバル化が進み,感染症はいともたやすく国境を越える時代となり,今まさに人類はCOVID─ 19 パンデミックと対峙している。ペスト,天然痘,スペインかぜ……。これまでもヒトは,数々の流行を経験してきた。そして,永遠にこの人畜共通感染症,新興・再興感染症,薬剤耐性などヒトを取り巻く感染症の問題は途絶えることはない。
感染症は体内に病原微生物が侵入することで発症する。その原因となる微生物ごとに予防戦略や治療薬が異なる。そのため,感染症診療で最も重要なロジックは,「患者背景の把握,感染臓器の特定,原因微生物の推定・同定」だ。原因微生物を推定・同定するためには,病歴聴取と身体診察をとにかく繰り返し,適切な微生物学的検査を行う必要がある。本書では,免疫不全や海外渡航後など患者背景が異なれば推察すべき原因微生物が異なるというロジックが症例ベースで解説されている。日本語版では,読み進めやすいよう
問題集をイメージして 2 週間で学ぶという構成にした。さらに,復習しやすいよう本文から最重要ポイントを抜き出し各症例の最後に追記した。
途上国の死因上位 10 のうち 3 疾患は感染症であり,HIV,結核,マラリアなど感染症の専門家が活躍できる場は世界に広がっている。本書では,グローバールな視点をもった感染症診療の考え方に触れることができる。その点,感染症専門医を志す医師にとどまらず,医学生,初期研修医,専攻医など感受性が豊かな時期に,ぜひともその考え方に触れてほしい。さらには,本書を通じて微生物の知識を身につけ,感染症の正しい診断プロセスを学んでほしい。
「人類には 3 つの敵がいる:熱,飢餓,戦争である  なかでも最も多く,かつ最も恐ろしいのは熱である」 William Osler, 1896
飯塚病院 感染症科
的野 多加志

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