新時代のヒトの代謝 - 遺伝子から健康づくりまで -

代謝の全体像がすらすら読める

代謝学は変わった!




生化学と分子生物学の最新知識を融合し、現代的な視点でアップデートした新時代の代謝学の参考書。代謝の反応とシグナル伝達や遺伝子発現、エピジェネティクスがどのように結びつくのか、また代謝の時間制御や臓器相関、病気や運動、栄養、老化における役割を豊富な図でわかりやすく解説。エネルギー代謝の生化学的基礎から身近な代謝生理学まで、代謝の全体像が平易な文章ですらすら読める。生化学の授業の参考書のみならず、代謝を学び直したい研究者・医師にも役立つ。

¥4,950 税込
木南 凌 新潟大学名誉教授
ISBN
978-4-8157-3092-5
判型/ページ数/図・写真
B5変 頁288 図126
刊行年月
2023年12月
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Part 1 代謝の基礎

第1章 栄養素とエネルギー代謝
  代謝の化学反応は生体内で調整されている
  エネルギー代謝と時間
   エネルギーの供給と消費には時間的ズレがある
   代謝は異化(酸化)と同化(還元)の2種類の反応からなる
  3つのマクロ栄養素:炭水化物,脂肪,タンパク質
  エネルギー代謝の流れ
   エネルギーの“利用”に適する? “貯蔵”に適する?
   エネルギー貯蔵体はどの組織にどれくらい存在するか
   異化には何段階もの過程が含まれる
   エネルギー代謝の流れを整理してみよう
   ATPはどのように産生されるか
   細胞内のATP量は常に感知され,調節されている
   ミトコンドリアで起こる酸化的リン酸化

第2章 栄養素の分解と合成
  炭水化物,脂肪,タンパク質
  炭水化物の代謝
   グルコースが主役である
   細胞内に入ったグルコースはリン酸化される
   グルコース分解の最初の段階:解糖系
   クエン酸回路とその調節機構
   NAD+の働きと NAD+不足の解消
   糖新生(グルコース合成)
   グリコーゲン代謝
   ペントースリン酸回路
  脂肪(脂質)の代謝
   脂肪酸と脂肪(トリアシルグリセロール)が主役
   脂肪の分解:TAG から脂肪酸,アシル CoA,β酸化へ
   脂肪酸の合成:TAG として脂肪組織に貯蔵される
   脂肪酸代謝とケトン体の合成
  アミノ酸の代謝
   栄養素としてのアミノ酸
   アミノ酸代謝の概要
   尿素回路:窒素が尿中に排出される
   アミノ酸の炭素骨格の代謝の概略

第3章 代謝の調節 (1)
  酵素,輸送体,遺伝子発現による調節
  酵素による代謝調節
   代謝がどのように調節されているかを知る意義
   酵素は 7 種類に分類される
   酵素は化学反応の進む方向と速度を調節する
   1 つの酵素の活性変化が多段階の代謝過程にどう影響するか
   酵素タンパク質の構造変化による活性調節:アロステリック調節
   酵素タンパク質の修飾による活性調節:リン酸基,メチル基,アセチル
による修飾
  代謝物質の細胞膜通過性とその調節
   グルコースの輸送体
   アミノ酸の輸送体
   脂肪酸,コレステロールの輸送
   水を含めた極性のある低分子の輸送
  遺伝子発現による調節:細胞レベルでの代謝調節
   遺伝子発現機構の概略
   酵素の発現を組織特異的に調節する仕組み
酵素や輸送体の量の変化による代謝調節(1) 代謝産物が転写因子に働きかけて遺伝子発現を調節
酵素や代謝物質の量の変化による代謝調節(2) 代謝産物がクロマチンを修飾して遺伝子発現を調節

第4章 代謝の調節 (2)
  ホルモンによる調節とその生理的役割
  ホルモンは情報交換システムの基盤の 1 つである
   ホルモンと神経系が情報を伝達する
   エネルギーの取り込みや貯蔵,消費の切り替えを調節
  代謝調節に関与するホルモン
   どんなホルモンがあるか
   インスリン:血糖値が高くなると分泌される
   インスリン:同化作用を促進する働きをする
   グルカゴンはインスリンとは逆の作用を行う
   アドレナリンの分泌とその働き
   その他のホルモンの分泌と代謝

第5章 ホルモンが働く仕組み
  受容体とシグナル伝達機構
  ホルモンとシグナル伝達カスケード
   ホルモン受容体の種類と活性化機構
   インスリン受容体とシグナル伝達
   アドレナリン受容体とシグナル伝達
   甲状腺ホルモン受容体とグルココルチコイド受容体

Part 2 生体内の代謝生理学

第6章 消化管と肝臓の働き
  消化・吸収を行う消化管と代謝センターとして働く肝臓
  消化管での栄養素の消化と吸収
   消化管での炭水化物の消化と吸収
   腸管でのタンパク質の消化とアミノ酸の吸収
   腸管での脂肪の消化と吸収
  肝臓での栄養素の代謝
   肝臓でのグルコースの代謝
   肝臓での脂肪酸の代謝
   肝臓でのアミノ酸の代謝

第7章 代謝の時間経過と臓器相関
  生体内でエネルギー代謝は動的に変化する

  臓器間での代謝物質の受け渡しを一覧しよう
  生体の代謝は 1 日のうちにどのように変化するか
   グルコースと遊離脂肪酸の血中濃度の変化
  生体内での炭水化物の代謝と時間経過
   夜間から朝食前まで:貯蔵された栄養素が消費される
   朝食後:消費から貯蔵への転換が起こる
  生体内での脂肪の代謝と時間経過
   夜間から朝食前まで:脂肪が分解される
   食事をとった後の脂肪の代謝
   生体内でのアミノ酸の代謝と時間経過
   グルコースと脂肪酸は栄養素として補完的であり, 競争的関係にある

第8章 多様な器官や細胞での代謝
  脂肪組織,筋肉,脳,増殖細胞の特徴
  脂肪組織とエネルギー代謝
   白色脂肪細胞での代謝
   褐色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞での代謝
  筋肉細胞でのエネルギー代謝
   骨格筋には 3 種類の筋細胞(筋繊維) がある
   骨格筋細胞での代謝
   心筋細胞での代謝
  脳,腎臓での代謝
  活発に細胞分裂を行う細胞での代謝
   増殖細胞では異化と同化の両方の経路が活発化している

第9章 タンパク質の合成と分解
  合成と分解のバランスの調整と個々のアミノ酸の利用状況
  タンパク質の代謝回転は速い
   摂取されたタンパク質の運命
  必要時にはタンパク質がエネルギー源となる
   タンパク質分解の場であるリソソームとプロテアソーム
   オートファジー:リソソームでの細胞内不要タンパク質の分解
   ユビキチン-プロテアソーム:タンパク質の選択的な分解
  さまざまなアミノ酸の調節
   肝臓でのアミノ酸の代謝と選択
   分枝鎖アミノ酸の代謝
   筋肉から放出されるアラニンの代謝
   活発に分裂する細胞でのグルタミンの代謝

Part 3 健康・運動・長寿

第10章 栄養摂取量の制限
  代謝や寿命にどのような効果があるか
  カロリーやタンパク質の摂取制限の影響を知る
   どの程度までの摂取制限が効果的か
   体内でカロリーやタンパク質量を感知し対応するシステム
   AMPK:エネルギー不足によって活性化される
   PGC-1α:ミトコンドリア代謝のマスター制御因子
   mTORC1:エネルギーレベルを感知し, 同化と異化のバランスをとる
   サーチュイン:エネルギー産生を増加させる
   IGF-I:タンパク質合成を促進する
   FGF21:エネルギーレベルの低下に対応して さまざまに作用する

第11章 代謝に必要な酸素供給
  筋肉へ酸素供給する呼吸器系と心血管系
  筋肉などの末梢組織への酸素供給
   肺換気による酸素の血液中への取り込み
   血流による酸素の運搬と筋肉への供給
   末梢組織の細胞内での酸素の捕捉(ミトコンドリアでの消費)
   酸素不足時の細胞応答
   酸素濃度の変化を感知する HIF-1

第12章 エネルギー量と熱量の測定
  酸素消費量で代替する
  エネルギー消費量はどのように測定するか
   エネルギー消費量=熱量である
   呼吸商から炭水化物と脂肪の代謝量の比を推定する
   エネルギー消費量とカロリー単位
   基礎代謝率は安静時のエネルギー消費率
   運動によるエネルギー消費量を測定する

第13章 有酸素運動と無酸素運動
  筋肉へのエネルギー供給システム
  筋肉へのエネルギー供給システム
   無酸素系のATP供給システム
   有酸素系エネルギー供給へのシフト
  ATP 供給におけるグルコースと脂肪酸の競合
   有酸素運動時の筋細胞へのグルコースの取り込みと代謝
   有酸素運動時の脂肪酸の消費
   運動時にみられる脂肪酸消費の低下

第14章 適切な運動と健康増進
  どのような運動トレーニングが効果的か
  運動の種類とトレーニングの効果
   持久性トレーニングとレジスタンストレーニングの効用
   運動トレーニングの内容と選択
  生理学的および生化学的因子の働き
   運動トレーニングの生理学的影響
   運動トレーニングの生化学的影響
   マラソン選手の運動時にみられるグリコーゲン消費
   運動効果と細胞内シグナル伝達系

第15章 飢餓状態の代謝応答
  低栄養が体に及ぼす影響を知る
  低栄養状態を理解する
   絶食時のグルコースの代謝
   絶食時の脂肪の代謝:主要なエネルギー源は脂肪である
   飢餓に適応する時期の代謝:グルコース消費が抑制される
   さまざまなホルモンによる飢餓への対応
  低栄養の評価方法とそれへの対応
   どのような評価方法があるか
   低栄養への対応の仕方
   サルコペニアの予防とそのためのタンパク質の摂取

第16章 病的ストレスと代謝応答
  感染,外傷,がんにより変化する代謝
  敗血症で起こる代謝の変化
   負の免疫応答が重症化すると敗血症になる
   高血糖とインスリン抵抗性が生じる
   ピルビン酸の過剰とミトコンドリアの機能低下が起こる
   脂肪酸およびアミノ酸の血中濃度が上昇する
   好気的解糖により高乳酸血症がもたらされる
  外傷で起こる代謝の変化
   重度の外傷や手術後の生体応答
   病原体感染と物理的損傷にみられる類似点と相違点
  がんで起こる代謝の変化
   がん患者にみられる痩せとサルコペニア
   細胞分裂が盛んながん細胞での代謝

第17章 脂質代謝の異常
脂質を運ぶリポタンパク質の働き
  リポタンパク質から脂質異常症を理解する
   脂質異常症の遺伝要因と環境要因
   脂質はリポタンパク質となって血中を運ばれる
   遺伝性が高いまれな脂質異常症
   脂質異常症の治療管理

第18章 肥満とエネルギー平衡
  肥満の病態を理解する
  肥満の病態
   肥満の原因と現代社会:1日4 kcalずつ食べ過ぎている
   肥満の評価法:BMI だけではない
   肥満がもたらす疾患や症候群:脂肪組織が影響する
   肥満の人はエネルギー摂取量だけでなく消費量も大きい
   肥満者の脂肪組織の病態:慢性炎症が引き起こされる
   さまざまな組織で慢性炎症が起こり,代謝記憶が生じる
  肥満に影響するさまざまな要因
   概日リズムと肥満
   食欲に影響するホルモン
   肥満に影響する遺伝要因:エネルギー代謝系の関与は小さい

第19章 糖代謝の異常
  糖尿病の代謝異常,遺伝要因, エピジェネティック効果
  1 型糖尿病と 2 型糖尿病
   1 型糖尿病にみられる代謝異常
   2 型糖尿病にみられる代謝異常
   糖尿病はグルコースだけの代謝異常ではない
  遺伝要因やエピジェネティック効果の影響
   糖尿病の遺伝要因:リスク遺伝子による素因
   代謝記憶とエピジェネティック効果

参考文献

私たちが健康に生活できているのは,エネルギー源となる栄養素を毎日摂取できているからです。そして,得られたエネルギー分だけを消費(代謝)し,摂取と消費のバランスがとられています。このバランス調節により生体の恒常性(ホメオスタシス)を維持できますが,摂取過多は肥満を招き,摂取不足は痩せや筋肉量減少(サルコペニア)を引き起こします。
現在,飽食や長寿の社会を迎え,肥満防止や筋肉量維持という面から,栄養素摂取やその消費(運動トレーニング)についての理解は重要性を増しています。代謝産物はサプリメントとして,また治療薬の標的として注目されています。この10年,栄養素の代謝産物が細胞シグナル伝達物質(ホルモン)として,このバランス調節や遺伝子発現調節に働くことがわかり,代謝研究は新局面を迎えているのです。この展開には,遺伝子やゲノム,メタボロームの研究の成果からの後押しがあります。
医学部での代謝の講義は,生化学や生理学の教室(講座)が長い間担当してきています。生化学では,栄養素(代謝基質)やその代謝中間体の化学構造と性質,酵素による代謝過程(およびその調節)がおもに解説されます。どちらかというと,試験管内から細胞,組織(臓器)レベルでの代謝が中心で,因果関係を追求するという特徴があります。一方,生理学は生体全体レベルの代謝の役割を解説し,因果関係というより,現象の正確な測定とその記述に重点があり,それだけヒトの健康維持とは関連深いといえます。生理学では,代謝がもたらすエネルギー(熱)の物理学,基礎代謝量や運動量の測定,栄養バランス,さらにホルモンや神経系を含めた生理的な生体応答とその調節機構が解説されます。
生化学や分子生物学の研究を行ってきた私は,医学部の生化学の講義を担当し,代謝の授業を学生に行ってきました。しかし基本的な内容に終始し,生化学と生理学,遺伝学(分子生物学)を取り込んだ現代的な枠組みの講義とはほど遠い内容だったのではないかと今では反省しています。現代的な枠組みの代謝の講義が実現できなかった最大の理由は,膨大な内容を十分に理解するための時間がなかったこと,そして全体の枠組みを説明する適切な教科書がなかったことにあり,それを残念に思ってきました。
そこで今回,代謝の全体像を勉強しなおし,健康や病気における代謝をも含めた,現代的な枠組みでヒトの代謝をまとめてみようと考え,本書ができあがりました。シグナル伝達と代謝を結びつける生化学的視点や,遺伝子発現からエピジェネティクス調節を含めた分子生物学的視点といった,新しい側面についても随所に取り入れています。
本書は大きく4つのPartに分かれています。代謝の基礎を説明するPart 1,臓器間の代謝の連関を統合的に説明するPart 2,そして応用編として,健康維持と代謝を扱うPart 3,病気と代謝を扱うPart 4です。代謝の基礎を説明する際には,基質や酵素といった具体的な役者の数を厳選して,仕組みをシンプルに説明するよう努めました。応用編である後半の2つのPartは,運動や低栄養を対象とした臨床栄養学を,肥満および糖尿病に至る臨床医学に直結させられるように説明しました。なお,1人の執筆になるので,内容には偏りがあるかもしれませんが,全体像の統一性を維持し,わかりやすく記述するという点では利点があるはずです。これが重要なのです。
これから代謝を勉強する医学生にとっては,医学教育の初期課程で体系的な理解を成すことは重要であり,診療と研究に忙しい若手の医師には,患者さんの病態を代謝栄養学的な目線から把握するのに貢献すると思います。さらに,運動スポーツ医学やリハビリテーション医学,臨床栄養学を学ぶ方々にも,基盤的な代謝への理解を与える内容だと自負しています。代謝は健康維持,生命活動の基盤になっているからです。

2023年11月

木南 凌

2023-12-18

【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。

ページ43
上から7行目
誤 図2.16c
正 図2.17c

2023-12-12

【正誤表】下記の箇所に誤りがございました。ここに訂正するとともに, 読者の方々に深くお詫びいたします。

ページ iv(序文)上から5行目
誤 臨床栄養学を(?)
正 臨床栄養学を,

ページ iv(序文) 下から9行目
誤 米川博
正 米川博

ページ51
上から11行目
誤 この反応過程を図は次のように表わせます。
正 この反応過程は次のように表わせます。

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