真菌症を体系的に学べる教科書、待望の刊行
Dr. Michael Rinaldiら世界的に著名な専門家が結集し編まれた、真菌感染症(真菌症)の貴重な教科書の翻訳版。真菌症を疫学、基礎から紐解き、最新の知見を踏まえ診断と治療を中心に解説。表や図を豊富に交え、巻末には症例集を収載。ガイドラインの記載だけでは物足りないというニーズに応えるべく、感染症科をはじめとした真菌症に関わる医師・医療従事者に必要な診断と管理のための実践的なツールを提供する。
Part I 患者へのアプローチ
1. 真菌感染症が疑われる患者へのアプローチ
Part 2 臨床検査および放射線診断
2.基礎真菌学
3.分子分類
4.真菌分子診断学
5.病理組織学的診断
6.血清診断
7.放射線診断学
Part 3 全身性抗真菌薬
8.全身性抗真菌薬
Part.4 真菌症
9.カンジダ症
10.カンジダ以外の酵母による感染症
11.アスペルギルス症
12.ヒアロヒフォミコーシス:無色の糸状菌による感染症
13.黒色真菌による感染症(黒色真菌症)
14.ムーコル症
15.ニューモシスチス症
16.クリプトコックス症
17.ブラストミセス症
18.コクシジオイデス症
19.エメルゴミセス症
20.ヒストプラスマ症
21.パラコクシジオイデス症
22.スポロトリコーシス
23.タラロミセス症
24.皮膚糸状菌症(白癬)およびその他の表在性真菌症
25. 外傷性深在性皮膚真菌症(黒色分芽菌症,菌腫,ロボミコーシス,およびエントモフトラ症)
参考になる症例/参考になる症例の考察
カラー写真
索引
はじめに
2015 年に“Diagnosis and Treatment of Fungal Infections(真菌症の診断と治療)” 第2 版が刊行されて以降も,真菌はヒト感染症の重要な病原体としてますます注目されています。免疫抑制療法の多様化や癌治療を受ける人口の増加,さらには集中治療室における最重症患者への管理や広域抗菌薬の継続的な使用などにより,高リスクグループは拡大を続けてきました。そのため,真菌感染症(真菌症)は依然として人類を悩ませる課題となっています。今回改訂された“Diagnosis and Treatment of Fungal Infections” 第3版では,世界的に著明な専門家が再び結集し,最新の知見を活用して真菌症患者を診断・治療するための指針を読者に提供しています。
基本的および選択的培養法,病理組織学的検査,血清学的手法,画像診断法や分子生物学的手法により,真菌感染症の診断能力および原因真菌の同定能力は絶え間なく向上してきました。遺伝子解析による同定は,病原体としての真菌に関する理解を向上させ,多くの新たな真菌がヒト感染症の原因として認識されるという結果をもたらしました。一方,近年の命名法や分子分類学の変化により,分離された真菌の新しい名称を理解することや,参照すべき医学文献の選択が困難となり,混乱が生じることがあります。本書では分子分類学に関する章を新たに設けることにより,これらの変化に対応しました。
現在,真菌感染症の全身治療に使用可能な抗真菌薬には,ポリエン系(アムホテリシンB),エキノキャンディン系,トリアゾール系の3 つの主要なクラスがあります。経験的治療の場面では,どの薬剤を選択するかが難しいことが多く,また,標的治療では通常,病原体を種レベルまで同定することが必要です。抗真菌薬の感受性試験は最適な抗真菌薬の選択に役立ちますが,その結果と治療成功との臨床的関連性が十分に確立されているのは,主としてCandida 属およびAspergillus 属に限られています。
“Diagnosis and Treatment of Fungal Infections” 第3版は,感染症科,血液・腫瘍内科,呼吸器内科,総合診療科,集中治療部,移植部門などの多忙な専門医に対し,真菌感染症の診断と管理のための実践的なツールを提供することを目的とした簡潔なテキストです。さらに,本書の内容の深さは,これらの専門医や研修医を含む他の医療従事者にとっても,優れた参考書および学習のソースとなるでしょう。
本書は使いやすさを考慮して4 部構成となっています。Part 1 では真菌感染症の疫学について概説し,患者の危険因子,曝露歴,感染臓器に基づいて診断を進めるための実践的アプローチを提示します。Part 2 では医真菌学の基礎を紹介し,真菌検査の基本手法,分子生物学,病理組織学,免疫学,画像診断技術を用いた現在利用可能な真菌症の診断ツールを紹介します。Part 3 では全身性抗真菌薬とその使用法,さらには耐性
ならびに抗真菌薬の感受性試験について概説します。Part 4 は同一構成から成る読みやすい17 の章で構成され,それぞれで表や図を交えながら,真菌感染症(真菌症)を解説しています。
San Antonio, TX, USA Duane R. Hospenthal, MD, PhD
San Antonio, TX, USA Michael G. Rinaldi, PhD
Baltimore, MD, USA Thomas J. Walsh, MD, PhD(hon)
監訳に当たって
真菌感染症,すなわち真菌症は疾患の種類こそ先進国,途上国により異なりますが,世界中できわめて深刻な問題となっています。その診断や治療の難しさに加え,ただでさえ数少ない抗真菌薬に対する耐性菌の出現と蔓延,Emergomyces に代表されるような新興真菌の登場,さらには,史上初めて登場した多剤耐性真菌Candida auris の急激な拡散と院内アウトブレイクなど問題は尽きません。深在性真菌症の多くはしばしば致死的ですが,次々と新薬開発の続く抗細菌薬と対照的に,抗真菌薬の開発は遅々たるものです。一方,真菌は病原性微生物のなかでも特殊な生き物であり,その診療には一般細菌感染症とは異なった知識と視点が必要となります。このため,欧米では古くから細菌感染症と区別され,基礎,臨床を問わず真菌や真菌症に関する数多くの優れたテキストが発行されてきました。しかし,我が国では,過去に医真菌学の教科書がいくつか出版されたものの,いずれも基礎領域に関するものであり,しかもその多くが絶版の憂き目を見ています。臨床領域に関しては状況はさらに深刻で,これまで長年にわたり真菌症の診療に関する教科書は事実上存在しませんでした。診療ガイドラインはいくつか出版され現場で大きな力にはなっているものの,ガイドラインにはEBM(evidence-based medicine)に基づく記載が求められるという縛りがあります。真菌症はその性質のためきちんとした無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)が非常に少なく,RCT に基づくガイドラインの記載だけでは物足りないという意見がしばしば聴かれました。また,米国感染症学会(InfectiousDiseases Society of America:IDSA)が指摘するように「個々の症例ごとのバリエーションが大きく標準化しがたい」というのも真菌症の問題点と考えられます.確かに,診療の現場で一番主治医が知りたいことは「実際にこの症例ではどうすればよいのか」「専門家はこういうとき,どのようにしているのか」であり,欧米の教科書はこれを意識して書かれていますが,我が国では,これに応えてくれる真菌症の資料が存在しなかったというのが実情です。真菌症コンサルテーションで全国の病院の先生方とお話ししていると「ぜひ日本語の教科書を」という声が多く,真菌症の研究と診療に携わるものとして,どうしても解決しなければならない大きな問題と考えてきました。
そのようななか,今回,メディカル・サイエンス・インターナショナル(MEDSi)より,Springer 社の“Diagnosisand Treatment of Fungal Infections” の訳書のご提案をいただきました。本書は真菌症の世界では広く知られた名著であり,すでに版を重ねて第3 版となっています。編者はD. R. Hospenthal,M. G.Rinaldi,T. J. Walsh といった真菌症の世界的トップリーダーで,各章の著者も選りすぐりの専門家を揃えています。内容をみると,菌学や病態,免疫,薬学といった基礎領域から画像診断や各診療科の診療まで多岐に及び,研究段階にある最新の知見も含めて幅広くカバーされています。我が国で存在しなかった貴重な教科書を発行する機会と考えて,喜んでお引き受けすることにしました。カバーされている範囲がたいへん広いことから,実際の翻訳はそれぞれの分野における我が国の第一人者の先生方にお願いしましたが,実際にでき上がった原稿を拝見すると,きわめて難解で専門的な解説も専門家ならではと思わせる平易な日本語でまとめられており,改めて,お願いした先生方の素晴らしさを実感した次第です。
もともと論理や構造の異なる英語を,その内容を損なわないようにしつつ,いかに自然な日本語に置き換えるかというのは,翻訳の大きな問題ですが,監訳に当たっては改めてその難しさを感じました。ヘルマン・ヘッセの翻訳で知られるドイツ文学者の高橋健二氏は「翻訳は破壊である」といっていますが,原文のニュアンスを正確に表現しようとすれば,日本語としては不自然になり,滑らかな日本語にするためには原文のニュアンスを失うリスクを伴います。文学では「破壊」してでも大意を捉えることが大切ですが,科学論文では大意はもちろん,細部の正確な表現も無視できません。非常に悩ましい問題で,それぞれの先生が腐心されていた様子が見て取れます。監訳に当たっては,担当された先生方のお考えを尊重して多くの表現をそのまま残しました。このような事情で章により若干のニュアンスの相違がありますがご理解ください。
本書は単に診断や治療のみを羅列した「マニュアル本」ではなく,診断・治療はもちろん,疾患の本質を理解するうえで重要な菌の性質や病態の説明にもしっかりと力が注がれています。今,症例に直面している主治医はもちろんのこと,さまざまな領域の基礎研究や診断,治療法の開発を始め,幅広い領域の先生方に役立てていただけるものと考えています.本書が真菌症の診療や研究に携わる多くの皆様のお役に立つことを祈念して止みません。
本書の出版に当たり,翻訳をお願いした先生方をはじめ多くの皆様にたいへんお世話になりました。特にMEDSi の佐々木由紀子氏には,仕事の遅れがちな私を叱咤激励しつつ貴重なアドバイスをいただき,何とか出版にこぎ着けることができました。また,千葉大学真菌医学研究センターの井上京子氏には事務作業を助けていだきました。皆様に改めて御礼申し上げます。
亀井克彦
千葉大学真菌医学研究センター / 同医学部附属病院感染症内科




























