テイラー先生のクリニカル・パール1 診断にいたる道筋とその道しるべ

備えよ,常に! いざというときの救いのパール574項目
家庭医療の権威、Robert B. Taylorによる珠玉のパール集、邦訳第1弾。医師ならば知っておきたいが,ある程度経験を積んでいても改めて調べないとわからない医学的事実を適切に抽出し、読みやすくクリアカットに説明したパール集。その数、全574項目。絶対に見逃してはならない疾患や、よくある疾患の意外な徴候に気づくためのパールを、診療各科のプライマリシーンから拾い上げ,明確なエビデンスを示しつつ、幅広く収載。ジェネラリストやそれを目指す研修医にとって、現場力養成の頼もしい味方となる。
¥5,280 税込
原著タイトル
Diagnostic Principles and Applications Avoiding Medical Errors,Passing Board Exams,and Providing Informed Patient Care
監訳: 吉村 学 宮崎大学医学部地域医療・総合診療医学講座教授 小泉俊三 東光会七条診療所(京都)所長/佐賀大学名誉教授
ISBN
978-4-89592-822-9
判型/ページ数/図・写真
A5変 頁464 図15・写真91
刊行年月
2015/5/29
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1 章 鑑別診断が難しい症状
2 章 乳幼児と小児
3 章 神経系
4 章 眼科
5 章 耳鼻咽喉科
6 章 心血管系
7 章 呼吸器系
8 章 消化器系
9 章 腎臓と男性の泌尿生殖器系
10 章 女性生殖器系
11 章 筋骨格系
12 章 皮膚・皮下組織
13 章 内分泌・代謝系
14 章 血液と血液系
15 章 感染症と寄生虫症
16 章 メンタルヘルスの問題
17 章 検査や画像による診断

監訳者序

Taylor先生に初めてお会いしたのは1997年,韓国ソウル市で開催されたアジア太平洋地区世界家庭医療学会のときのことである。当時の私は自治医科大学地域医療学講座でチーフレジデントをしていたものの,自らのアイデンティティや今後のキャリアをどうしたらよいか迷っていたので,先生が特別講演で,米国や世界で家庭医が果たす役割や実際の診療の様子などを興味深く紹介されたことにとても感銘を受けたのを覚えている。
 その後,縁あって地域医療振興協会(JADECOM)と先生が主任教授をつとめるオレゴン健康科学大学(OHSU)家庭医療学講座とのexchange programが始まった。実際に先生ご夫妻を揖斐まで招き,指導医の指導や地域医療教育のワークショップ開催などに尽力いただいたこともある。その後もレジデントや指導医の交流は続いている。
 Taylor先生は医学部を卒業し研修を終えた後に,ニューヨーク州の僻地で一人診療所を実践して経験を積んでいる。その14年間の診療経験のなかで,家庭医に向けた診断学の教育・研修の必要性を痛感し,自ら全米の仲間に声をかけて臨床経験の知の結集を図る作業を始めた。同時に,大学教育にも邁進すべくキャリアを変え,その後OHSUが強力な家庭医療のメッカとなったことは皆さんもご存知であろう。来日時にさまざまな相談を先生にもちかけると,直ちに答えが返ってくるほど臨床経験や文献的な裏付けが豊富で,いつも感動する。現在は臨床から離れて引退されているものの,先生の臨床能力の知の結集ともいえるこの本に,いかんなくその内容が開陳されている。
 本書には,もちろん尤度比や有病率などの情報も沢山盛り込まれているが,それだけでなく臨床の巨人としてのTaylor先生に見えてきた風景・景色にも触れることができる。全部を覚える必要はないが,序文にあるように本書を,「枕元におき,海辺に携行し,旅路の機内でも」開いてその都度見返していけば,それぞれのパールが深く記憶に刻まれて,読者の臨床実践や教育活動を豊かなものにしてくれるはずである。EBMを実践するうえで最も大事な要素の1つがclinical expertiseである。たやすく身に付けられるものではないが,若手の医師でも,本書を通じてその一端を学ぶことができる。今の時代を生きる医師としては,clinical expertiseを磨く努力を続けていく必要があるのである。
 本書の翻訳には日本の地域医療の現場で活躍している面々にご協力をいただいた。この場を借りて厚く御礼を申し上げる。医学生からベテラン医師に至るまで,本書がお役に立つことを確信している。

2015年,新緑の季節に
宮崎大学医学部 地域医療・総合診療医学講座
吉村 学



序文

喘鳴があるからといって喘息とは限らない。
―Chevalier Jackson 1)
(米国の咽頭科医,1865~1958)

なじみの薄い,ひょっとして忘れてしまっているかもしれない,診断の最終目的地への道筋を学び,読者がよりよい医師になること,それが本書の目的である。本書が道路地図だとしたら,そこに記されているのはあまり使われていない「裏道」であり,幹線道路では目的地にたどりつけないときに絶大な効果を発揮する道である。上に引いた,米国の咽頭科医Chevalier Jacksonの言葉を考えてみよう。経験を積んだ医師なら,喘鳴のある患者を前にすれば,鑑別診断リストの1番上に喘息を挙げるだろう。しかし,抜け目のない医師であれば,臨床状況しだいで異物誤嚥,Wegener肉芽腫症,肺寄生虫症,大動脈瘤による気道狭窄も考える。こうした可能性を考慮することが,正しい診断に至る第一歩なのである。
 疾患の一覧表が長々と載っていて,症状,徴候,異常な検査値を解説してくれる「総合」鑑別診断の本をよく見かける。しかし本書はそのようなタイプの本ではない。むしろ,忘れがちで,珍しく,ともすると腹立たしいほど奥深くて難解な病因をトピックスとして選んだ。ここでライフガードのパラドクスを譬えに挙げてみよう。向上心あふれるライフガードが,実際の勤務中に日がな一日行っている業務に訓練時間を費やすように言われたとしたら,彼らは日焼け止めを体に塗る訓練に精を出すことになるだろう。しかし,ライフガードに求められるのは,予期せぬ出来事が起こった際にどう対処するか,ということである。医療現場では,珍しい疾患や,よくある疾患なのに意外な徴候に出会ったり,ときには予想外の頻度でそれが起きたりする。したがって,折に触れて復習しておかなくてはならないのである。
 本書では遭遇頻度とは関係なく,中毒性巨大結腸症や精巣捻転など,とりわけ見逃したくない疾患ももちろん取り上げている(そういった疾患には「見逃しの許されない疾患」のタグをつけている)。
 また本書では,病歴聴取,身体診察,基本的な臨床検査や画像検査といった,従来型の診断ツールの正しい利用法に力点をおいた。PETスキャンや遺伝子検査といった,もっと難解な手法は絶えず進化しており,書籍よりも学術誌やウェブ上のソースにタイムリーな情報が掲載されている。本書は内容を精選したので,包括的なものを目指すというよりも,影響力の大きい疾患の発見に目を向けた。また,診断学の本であるから,治療に関する情報は,それが論旨を豊かにするか,正確な最終診断に至ることが危急の要件であると強調したい箇所にのみ記載した。

本書を読めば何が得られるか? 診断にかかわる以下のような事実が述べてある。
古典的な診断パール:例えば,急性心膜炎の患者は前胸部の痛みを軽減しようとして前傾姿勢をとることが多い。
深刻な疾患の危険信号である徴候:子どもにキスしたときに「しょっぱい」味がしたら,嚢胞性線維症を診断する最初の手がかりかもしれない。
直観に反した臨床症状:痛風患者の血清尿酸値は,急性期には基準値内だったり低値のことがある。また,夜間の背部痛は実際のところ,深刻な脊髄病変の検出には有用でない。
早期診断に結びつくかもしれない徴候:腹部膨満は子宮癌の早期の徴候としてよくみられる。また,初期の胃癌患者は肉を食べたがらなくなることがある。
特定の疾患を疑わせる奇妙な臨床所見:これは例えば,真性多血症の患者が熱いシャワーを浴びた際に痒くなる水原性痒症を想定している。また,船の航跡のような模様が皮膚に出現する水尾徴候は,疥癬でしかみられないことが明らかになっている。

本書の読者は誰だろうか? 医学の専門分化が進んできており,医学書もその内容を限定しつつある。それに反して本書は,全年齢・全身を対象に診断にかかわる事実を提供しており,扱っている範囲は非常に広い。したがって,医学生,レジデント,臨床医,ナース・プラクティショナー,フィジシャン・アシスタント,看護師のほか,診断的な観察と決定を行うあらゆる人が読者となる。
 では,あなたにこの本は必要だろうか? どの診療科でもよいが,実際に生身の患者を診ているなら,下の5つの問いに答えてみてほしい。1つでも回答できないものがあれば,読書リストの上のほうに本書を加えておかれることを勧める。
 1. 乳癌を見逃しやすい状況を3つ挙げよ。
 2. リンパ節腫脹の発生部位のうち,最も懸念すべきところはどこか?
 3. 脊椎の前屈で軽減する腰痛から示唆される診断は何か?
 4. 低ナトリウム血症が診断の手がかりとなる精神疾患は何か?
 5. 虹彩炎に対するAu-Henkind試験,尺骨神経麻痺でのWartenberg徴候,回転性めまいの原因の手がかりとなるTullio現象について説明せよ。

本書の特徴はどこにあるか? 医学教育や臨床経験には,かなりむらがある。医学部を卒業したばかりの新米医師はGuillain-Barr症候群や脊椎の骨髄炎をみたことがないかもしれないし,経験を積んだ医師でも,病的に過剰なあくびを主訴とする患者や,髄液鼻漏が疑われる患者に出会ったことはないかもしれない。読者の皆さんは受けた教育も経験もさまざまだから,収載したパールのいくつかに心得のある方もいて,なんでまたこんなよく知られていることをここに書いたのかと思われるかもしれないが,そうでない読者は,その情報を新しい知識として身につけてくれるだろう。本書では,基礎的な身体診察学や医学書ではあまりカバーされていない事実をなるべく盛り込むよう心がけた。
 従来の診断学の本は,喀血,胸痛,水疱性の発疹というように徴候別の構成になっている。一方でリファレンスとして使う本は,肺癌,心筋梗塞,天疱瘡などと,疾患名別に構成されている。本書では,徴候と疾患の両方の見出しのもとに情報を載せた。判断に迷うときは,最も徴候が起こりやすい臓器や組織系のもとで解説した。例えば,手がかりとして鼻先あたりに小水疱を生じた帯状疱疹患者は眼部帯状疱疹のリスクがある,といったケースである(このパールは4章よりも5章に詳しい)。
 紙数が限られているので,引用論文は,筆頭著者,論文タイトル,雑誌名,発刊年,巻,冒頭ページ数を記載する簡便な表記法とした。共著者の方々には申し訳なく思う。こうすることで,PubMed,BioMedLib,Google Scholarで検索するのに十分な情報を提供しつつ,事実の記述にいっそう紙面を割くことができた。引用文献の一覧は各章末ではなく,記事のすぐ後に載せた。ここに置いておくのが非常に便利だと私は考える。また付録として,本書で使用した統計用語の解説を巻末に載せておいた。
 本書は文献にもとづいており,ここに載せた事実はすべて,医学文献のどこかに書かれている。しかし,主張のなかにはいわゆるエビデンスにもとづかないものもある。例えば,Wernicke脳症でたまにみられる垂直性眼振のような臨床でまれに出会う徴候の感度や特異度,あるいは片頭痛患者の一部にみられる赤耳症候群といったまれな徴候の陽性適中率について,われわれは正確には知らない(少なくとも,私は探し出せなかった)。ジギタリス中毒でみられる黄視といった現象は,経験を積んだ医師たちが繰り返し観察しており,時の試練にも耐えてきたようで,わずか数例の症例報告に支えられているが,繰り返し話題になる臨床的な言い伝えの一例である。しかし,脈圧の高さと白衣高血圧に認められる正相関など,本書に載せた事実のほとんどは,統計解析と査読を受けたものである。もちろん,異論のあるものもあるし,学問的に真実と考えていることが将来の臨床研究の結果しだいでは再考を要することになる,ということはわかっている。読者には,精通していない領域で臨床決断を行う前に,本書の内容をきっかけとして,その後,最新の文献にあたってほしい。
 身体所見や診断手技(例えば,6章で取り上げた下肢の深部静脈血栓性の静脈炎を示唆するLisker徴候)を述べるにあたって引用した文献のなかには,時代遅れといわれるものもある。現在の医学部では,疾患の指標となる症状や身体的なバイオマーカーを教えることは流行遅れのようだ。そしてVergheseが述べたように,「心エコー検査,MRI,CTで解剖学的特徴は正確にとらえられるので身体診察は必要ない,とみなしてしまうことがあまりにも多い」2)。私は,「古めかしい」といわれている病歴上の手がかりや身体症状は,医学の遺産の単なる一部ではないと考える。これを知っていれば,速やかに疾患を同定することと,高額な一連の臨床検査や画像検査に時間を費やすことの差がはっきりすることも多い。実際,身体診察に関する医学教育の質にはむらがあり,ハイテク技術を使った医療のコストが高騰していることからみても,本書のニーズはかつてないほどに高まっていると,私は思う。

本書はどう使ったらよいか? 本書は講義に使うような古典的な教科書ではないし,読むのではなく検索目的の臨床リファレンス本でもない。本書は,いつか厄介な状況に陥ったときにそれを解決するかもしれない事実を選りすぐった「局所」本である。だから読者には,最初から最後まで通して読んでほしい。枕元におき,海辺に携行し,旅路の機内でも開く。ゴールは,診断の原理と最近の適用を学ぶとともに,必要になったときに引き出せるよう記憶に擦りこむことである。拙著“Essential Medical Facts Every Clinician Should Know”3)をポストイット(付箋紙)に見立てたのは,うまい譬えだったと今も思っている。読者が今日読んで覚えたことも,数カ月あるいは数年間は臨床で出番は来ないかもしれない。しかし,いよいよそのときが訪れたら,必要な情報は記憶に貼り付けた付箋紙の中にある。あとは索引を引くか,ウェブ上で原著論文を読んで自身の記憶を確認すればいいのである。
 このような,読み,付箋紙を貼り,思い出し,確認する,というアプローチに加え,頭を抱えるような難しい問題に直面したら,本書の索引を引くのもいいだろう。上記の5つの質問の答えも,索引を引いて確かめてみてほしい。
 よくある疾患がよく起こるのは当たり前で,説明はいらない。「蹄の音が聞こえたら,シマウマではなく馬を思い浮かべよ」という格言を耳にしたことのない医師はいないだろう。しかし,予想もしていないときにまれな状況に遭遇する,ということも誰にでも起こりうるのである。本書の内容に親しんでおけば,忙しい外来診療中や問診中に,馬の病気には一般的ではない症状をそれと見抜いたり,シマウマを診断しようとしていることに気づく助けになるだろう。
 最後に,本書は読みやすさを念頭において,統計的な情報は過剰な負担とならないよう,論旨を支えるのに必要な記述にとどめた。また,われわれの遺産の継承者でもある読者の知識を豊かにするべく,歴史的な逸話についても触れている。そして何よりも原書タイトルに,
 Avoiding medical errors
 Passing board examinations and
 Providing informed patient care
と記したとおり,臨床に役立つものとなるよう最善をつくした。

1. Jackson C. A new diagnostic sign of foreign body in trachea of bronchi, the “asthmatoid wheeze.” Am J Med Sci. 1918; 156: 626.
2. Verghese A. Culture shock: patient as icon, icon as patient. N Engl J Med. 2008; 359: 2748.
3. Taylor R. Essential medical facts every clinician should know. New York: Springer; 2011.

オレゴン州ポートランド
Robert B. Taylor, MD

2016-06-21

245頁 パール339

(誤)これは,患者が階段を上がったり,のぼり坂を歩いたり,自転車をこぐと痛みがぶり返す可能性があることを意味する。
(正)これは,患者が階段を上がったり,のぼり坂を歩いたり,自転車をこぐと痛みが軽減する可能性があることを意味する。

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