難解な用語、段取りも、この1冊で安心!
臨床遺伝専門医としてがんゲノム医療の多数の症例に携わってきた著者のこれまでの経験をもとに、複雑ながんゲノム医療に関し図を交えわかりやすく解説した実践ガイド。エキスパートパネルの様子や患者への説明を具体的に紹介し、つまずきやすい点、わかりにくい点、今さら聞けない基礎知識などを特に詳しく解説。臨床遺伝専門医や主治医をはじめ、遺伝カウンセラー、看護師、臨床検査技師など、がんゲノム医療に携わるすべての人に有用。
Part 1 がんゲノム医療とは? 1
Introduction がんゲノム医療の概要を頭に入れよう
患者さんへの検査提出前の説明をわかりやすく行う
▌ どこで受けられるか?
▌ そもそもがんゲノム医療とは?
▌ がんゲノムプロファイリング検査で遺伝子を調べる
▌ 今までの検査との違いは?
▌ がんゲノムプロファイリング検査が受けられる条件は?
▌ がんゲノムプロファイリング検査の種類
COLUMN そもそもゲノムって?
▌ がんゲノム医療の流れを概観しよう
▌ 最終報告書にはどのようなことが書いてあるか?
▌ 遺伝性のがん種が見つかることがある
▌ がんゲノム医療の費用はどのくらいか?
▌ C-CATに情報を蓄積して新たな治療薬開発に役立てよう
第1章 がんゲノム医療の概要をもう少し詳しく
患者さんから質問されたときにもあわてない
1.1 がんゲノム医療を受けられる施設は全国に分布
・3種類の病院には役割の違いがある
・エキスパートパネルでつながる連携病院
・患者さんは3種類の病院のどこを受診してもいい?
COLUMN 「がんゲノム医療が受けられる病院」と「がん診療連携拠点病院」は異なります
1.2 がんゲノム医療で特に注意すべきこと
・入院中はどうして検査を提出できない?
・治療薬が何も見つからないこともある
1.3 標準治療と先進医療とがんゲノム医療
1.4 分子標的治療薬のコンパニオン診断って何?
・そもそもコンパニオン診断って何?
・分子標的治療薬のためのコンパニオン診断
・現在のがんの治療で用いられるコンパニオン診断システム
COLUMN 「がん」と「癌」の違い
第2章 がんゲノムプロファイリング検査とは?
検査の種類や検体のタイプについて詳しく知る
2.1 がんゲノムプロファイリング検査にはどんな種類があるか
・検査には次世代シークエンサーが使われる
・扱う遺伝子はキット化されている
COLUMN バリアントはどのように見つけるか?
・T-only検査とT/N paired検査がある
・どの検査を用いるか
・造血器腫瘍または類縁疾患の検査
2.2 どのような検体を用いるか
2.3 リキッドバイオプシー
・リキッドバイオプシーの特徴
・リキッドバイオプシーの長所と短所
2.4 検査における情報の流れについて
COLUMN 個人情報の取り扱いに関して質問があります
Part 2 エキスパートパネルと報告書についての疑問を解決
Introduction エキスパートパネルをのぞいてみよう
1 つの症例についての検討を実況中継
第3章 報告書の種類とエキスパートパネル
具体的に整理しよう
3.1 報告書にはどんな種類があるのか
・解析結果レポート:解析企業からの報告書
・C-CAT調査結果:C-CATからの報告書
・エキスパートパネル結果報告書:エキスパートパネルの討議結果をまとめた報告書
3.2 エキスパートパネルは専門家会議
COLUMN エキスパートパネルにかかわる負担
COLUMN パネルの意味はいろいろ
・エキスパートパネルの構成員
・エキスパートパネルで話される内容
・主治医があらかじめ用意するもの
・エキスパートパネルで開催病院スタッフが用意するもの
第4章 今さら聞けないがん診療の基礎知識
知っておくとこんなに役に立つ
4.1 「がん」と「癌」を使い分ける考え方
COLUMN いろいろな言語での「がん」
4.2 TNM 分類とステージとは?
4.3 標準治療とは?
4.4 治療効果判定とは?
4.5 遺伝性腫瘍について
・二次的所見として発見される遺伝性腫瘍
・確認検査で遺伝性腫瘍を確定する
・どのバリアントに確認検査を行うか
COLUMN 遺伝するものを調べる遺伝学的検査
第5章 一目でわかる遺伝子と治療薬の関係
シグナル伝達経路で整理しよう
5.1 がん関連遺伝子とは?
・がん遺伝子とがん抑制遺伝子
・がん遺伝子の機能獲得型変異ががんを引き起こす
・がん抑制遺伝子の機能喪失型変異ががんを引き起こす
5.2 ドライバー変異とパッセンジャー変異
・運転手がドライバーで乗客がパッセンジャー
COLUMN バリアントアレル頻度(VAF)とマイナーアレル頻度(MAF)
5.3 遺伝子と治療薬をシグナル伝達経路から理解する
・シグナル伝達経路とは?
・シグナル伝達経路を理解するとなぜ役立つのか
・分子標的治療薬とシグナル伝達
COLUMN シグナル伝達経路で情報が伝わり,遺伝子発現が調節される
・本書のシグナル伝達経路の図の見方で注意すること
5.4 MAPK(ERK) シグナル伝達経路の遺伝子のバリアントが見つかったとき
5.5 RAS/PI3K/AKT/mTOR シグナル伝達経路の遺伝子のバリアントが見つかったとき
5.6 細胞周期に関するシグナル伝達経路の遺伝子のバリアントが見つかったとき
5.7 DNA 複製とミスマッチ修復のコントロールに関する遺伝子のバリアントが見つかったとき
5.8 ゲノム安定性の維持(DNA 損傷応答のコントロール)に関する遺伝子のバリアントが見つかったとき
5.9 ゲノム安定性の維持(DNA 損傷応答のコントロール/ 特にBRCA1とBRCA2)に関する遺伝子のバリアントが見つかったとき
5.10 Wnt シグナル伝達経路の遺伝子のバリアントが見つかったとき
5.11 受容体型チロシンキナーゼやそのリガンドの代表的な遺伝子
COLUMN 遺伝子の座位が近いMTAP ,CDKN2A のバリアントが見つかったとき
第6章 がんゲノムプロファイリング検査の最終報告書を読み解く
難しい用語もこれですっきり
6.1 報告書を読み解く
6.2 遺伝子変異量(tumor mutational burden:TMB)とは?
・TMB-highだと免疫チェックポイント阻害薬が効きやすい
・TMBとMSIや重複/欠失との関係
6.3 マイクロサテライト不安定性検査とは?
・そもそもマイクロサテライトとは何?
・マイクロサテライト不安定性(MSI)検査とは?
COLUMN サテライトの語源は「衛星」のようなバンドだったから
・Lynch(リンチ)症候群でのMSI-high
6.4 相同組換え修復欠損(HRD)とは?
・DNA損傷を修復する仕組みの1つが相同組換え修復(HRR)
・相同組換え修復欠損(HRD)はがん化リスクを高める
COLUMN 高いHRD はシスプラチン感受性を示唆する
6.5 変異シグネチャーとは?
6.6 CHIP とは?
Part 3 患者さんへの対応とC-CATへの入力
Introduction 検査結果提出時の説明を工夫しようシナリオでわかりやすく
症例1 ファウンデーションワンの結果を説明する
症例2 見つかったバリアントの説明をする
症例3 遺伝性についての確認検査の結果を説明する
症例4 治療薬が見つからなかった場合の説明
第7章 患者さんへの報告とその後
報告すべきポイント,二次的所見,C-CAT への入力
7.1 がんゲノム医療の検査提出前後の説明
・検査提出前の説明で伝えるべき内容と留意点
・最終結果について伝えるべき内容
・患者さんにお渡しするもの
・医師用として保管するもの
・高額療養費制度で医療費の負担を軽減する
COLUMN 公的医療保険での自己負担額
・患者申出療養制度で未承認薬や先進医療を受ける
7.2 二次的所見の取り扱いについて
・二次的所見の開示対象の遺伝子リスト
・がん関連遺伝子のシングルサイト解析
・シングルサイト解析は具体的にどのように行うか
7.3 C-CAT への入力
・C-CATに期待される役割は大きい
・C-CATに何を入力するか
分子標的治療薬一覧
がんゲノム医療で役立つ用語解説
2019 年6 月1 日にがんゲノム医療が取り扱うがんゲノムプロファイリング検査が保険収載されました。それまでは研究や先進医療などで実施されたので高額な実費がかかったのですが,それぞれの年齢層によって自己負担額が3 割,2 割,1 割などに設定される場合や,高額療養費制度の対象になる場合があり,患者さんによっては非常に利用できやすい時代が到来したのです。
では医療従事者にとって当時がんゲノム医療はどのように受け止められたのかというと,私は臨床遺伝学と臨床検査医学を専門としていますが,ものすごいスピードで医学領域から実際の診療である医療領域に進んだという感想を持ちました。例えば単一遺伝子疾患の診断に関わる遺伝学的検査が初めて保険収載されたのはデュシェンヌ型筋ジストロフィー,ベッカー型筋ジストロフィー及び福山型筋ジストロフィーの3 疾患について2006(平成18)年度でした。2025(令和7)年現在,約200 疾患の遺伝学的検査が保険適用されているのですが,この20 年間で何が変わったかというと,保険適用された疾患数と,保険点数(費用)でありシステム自体は著明に変わったという印象はありません。
それに対して,がんゲノム医療は,がん組織のみならず血液中のセルフリーDNA を用いるという対象検体の拡大,検査レポート発行までの精度保証に関わる専門家会議(エキスパートパネル)制度の確立,治療方法につながる情報の提供,がんゲノム医療に関わる遺伝カウンセリング体制の関与など多くの新しい試みが臨床現場に適用されました。各病院ではがんゲノム医療中核拠点病院,拠点病院,連携病院が指定された上で,院内において各診療科,臨床検査,病理診断,遺伝子診療などを結ぶチーム医療の立ち上げ,外部委託検査会社,データ解析企業との連携など短時間で立ち上げなければならなかったというのが私の印象です。
そうして6 年ほど経ちましたが,がんゲノム医療連携病院に所属する私なりに,医療従事者のみならず,患者さんにとって,どんな情報を欲しておられるか,何が分かりにくいのかを把握するようになってきました。そこで『医療に役立つ遺伝子関連Web 情報検索─手とり足とり教えますガイド』『遺伝子診療よくわかるガイドマップ─初診から検査そして結果報告まで』と過去2 冊を出版してきた経験をもとに,がんゲノム医療を連携病院の視点でとにかくわかりやすく解説してみようと思い立ちました。医療従事者のみならず,患者さんを含めあらゆる方が読めるようになっています。この本がタイトル通り,がんゲノム医療についてスッとわかるような解説本となり,読者諸氏のご理解の助けになればこんなにうれしいことはありません。がんゲノム医療は今でもものすごいスピードで進化し続けていますし,私の知識・技量で至らない点もあるかと思います。ぜひ,お気づきの点があれば,追記・改訂してまいりたいと思っていますので,宜しくお願い致します。
日本大学医学部病態病理学系臨床検査医学分野 教授
中山智祥