特集:ホスピタリストのための精神科の知識
精神科的問題に適切に対応するための実践的ガイド
精神科的問題は、内科系・外科系医師が日常診療のなかで最も対応に苦慮する問題の1つとして挙げられる。この点については、多くの臨床医が異論を唱えないであろう。身体科医が病棟管理の過程で最も頻繁に遭遇する器質性精神症状であるせん妄はもちろん、気分障害や不安障害、統合失調症、発達障害、パーソナリティ症などの一次性精神疾患も、特定の診療科にとどまらず、あらゆる医療現場で遭遇し得るものである。
しかし、精神科領域は専門的知識を要するため、身体科医にとっては敷居が高いと感じられることも少なくない。その一方で、日本の医療機関では、精神科へのコンサルテーションを円滑に実施できる体制が十分に整っている施設は依然として限られており、多くの身体科医が精神科的問題に対して自ら初期対応を行わざるを得ないのが現状である。
本特集は、身体科医が病棟管理の過程で遭遇することの多い精神科的問題について、米国の身体科病棟管理においてすでに一般的である、コンサルテーション・リエゾン精神科(C/L Psychiatry)の視点から包括的に概説し、身体科医が精神科的問題に適切に対応するための実践的ガイドを目指した。
各章では、一般精神科専門医やC/L精神科専門医のみならず、依存症精神医学、司法精神医学、総合診療、神経内科など多様なバックグラウンドをもつ執筆者が、それぞれの専門性を生かし、診断・治療・連携のポイントを具体的に解説している。また、米国で活躍する日本人精神科医に広く執筆を依頼するとともに、日本の文化的背景や医療制度・診療体制に即した対応が求められるテーマについては、日本で診療を行う精神科医に執筆をお願いした。これにより、国際的視点と国内実情の双方をふまえた内容を提供することを意図している。
本特集が、日常診療における精神科的問題への理解を深め、より良い医療連携と全人的ケアの実践に寄与することを心から願っている。
はじめに. 精神科的問題に適切に対応するための実践的ガイド
松木 隆志 Department of Psychiatry, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
1. せん妄:予後悪化を防ぐための適切な診断と介入のポイント
鄭 素怡 横須賀共済病院 精神科
松木 隆志
2. アルコール依存症・離脱:内科病棟における問題と管理、退院前にできること
宋 龍平 岡山県精神科医療センター/株式会社CureApp
角南 隆史 佐賀県医療センター好生館
3. 薬物と依存症:身近な「病気」として認知されている米国での現状
豊島 丈雄 Drug and Alcohol Treatment Clinic, San Francisco Veterans Affairs Medical Center
[コラム①]薬物以外の依存症:ギャンブル行動症の例
豊島 丈雄
[コラム②]急性精神病疾患:幅広い鑑別疾患を考えつつ、初発の精神病状態の診断を進めていくプロセス
結城 くみ Mount Sinai Family Medicine & Community Health
4. 気分障害:単極性と双極性の病態で、薬物療法が大きく異なる
藤田 弥佑 Georgetown University, School of Medicine
胡 啓愛 National Institute of Mental Health
5. うつ病:背景や模倣疾患などを含めた全体像をとらえておきたい
吉川 真由 Tufts University, School of Medicine
胡 啓愛
[コラム③]精神疾患と混同されやすい器質的疾患:急性/慢性の、あるいは発作的な精神症状からの鑑別
杉田 陽一郎 東京ベイ・浦安市川医療センター 神経内科
6. 精神科で使用する薬剤の副作用:抗うつ薬、気分安定薬、抗精神病薬での注意点を整理する
山梨 豪彦 鳥取大学医学部 脳神経医科学講座 精神行動医学分野
篠崎 元 Department of Psychiatry and Behavioral Sciences, Stanford University School of Medicine
[コラム④]精神科で使用する薬剤と心電図のQTc延長:患者背景にある追加リスク因子に注意する
鄭 素怡
松木 隆志
[コラム⑤]非定型抗精神病薬のoff-label use:疾患ごとの役どころ
山梨 豪彦
篠崎 元
7. パーソナリティ症:患者対応のポイントを押さえよう
春口 洸希 Icahn School of Medicine at Mount Sinai/Mount Sinai-Behavioral Health Center
[コラム⑥]患者対応が困難な状況(difficult patient encounters):要因分析と対応方法を中心に
鋪野 紀好 千葉大学大学院医学研究院 地域医療教育学
伊藤 彰一 千葉大学大学院医学研究院 医学教育学
8. 大人の発達障害:診断と治療の概要、患者や家族とのコミュニケーションのポイント
表西 恵 ニューヨーク州、ニュージャージー州、オハイオ州認定サイコロジスト/Office of Takashi Matsuki
9. 統合失調症:症状とそれに対応した治療のポイントを理解しておこう
許 善濬・文 鐘玉・竹内 啓善 慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室
山口 創生 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域精神保健・法制度研究部
新井 さゆり・冨田 真幸 医療法人財団厚生協会 大泉病院
10. 不安障害(不安症):重複の多い強迫性障害(強迫症)を含めて
廣田 智也 Department of Psychiatry and Behavioral Sciences, UCSF Weill Institute for Neurosciences, University of California, San Francisco/岡山大学大学院医歯薬総合研究科 子どもの発達とメンタルヘルス講座
[コラム⑦]PNES(心因性非てんかん性発作):てんかんとの鑑別が問題となる
中村 啓信・髙木 俊輔 東京科学大学 精神行動医科学分野
11. 摂食障害:障害自体の多様化に加え、種々の精神疾患の併存による多様化もみられる
三井 信幸 北海道大学病院 精神科神経科/北海道大学 保健センター
12. 不眠や入眠困難:睡眠障害の基本知識から具体的アプローチまで
久田 麗奈 Cone Health
[コラム⑧]日本における精神疾患と法制度:背景にある地域の精神科医療ニーズと合わせて理解しておこう
竹島 正 大正大学地域構想研究所
[コラム⑨]患者の判断能力をどう評価する?:意思表示の背後にある多様な文脈を理解し、支援アプローチを考える
高松 直岐・久我 弘典 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター
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